カントクは近くにいた黒子に話を振った。
「話が進まん!黒子君なんかアダ名つけて」
数秒悩む様子を見せると、黒子は表情を変えずに言う。
「『お父さん』で」
「何そのセンス!!?」
「『お父さん』?ああ…『パパ』だから!」
すかさず黒子にツッコんだ仲間たちより少し遅れて、理由を理解した遥は両手を打ち合わせた。
「だからこのお父さんを……聞けよ!!」
余程『お父さん』がツボだったのか、カントクの話が耳に入らない程、部員たちは腹を抱え小刻みに震えている。
いつも物静かな水戸部だけは直立していたが、やはり震えており、結局誰も笑いを堪えきれていなかった。
「特徴は背だけじゃなくて手足も長い。とにかく『高い』の一言に尽きるわ!」
カントクの的確な説明の通り、戦力アップのため外国人選手を留学生として迎え入れる学校は増えている。
次の相手の新協学園も、去年までは中堅校といった印象だったのだが───。
「たった1人の外国人選手の加入で、完全に別物のチームになってるわ。届かない…ただそれだけで誰も彼を止められないのよ」
遥は息を飲んだ。
周りの部員たちも、先程の雰囲気が嘘のように静まり返っている。
「……あのね。だからって何もしないワケないでしょ!!」
頼りになる女カントクは、期待のルーキー2人に向き直った。
その際、強豪中学出身のマネージャーである遥に視線を飛ばすことも忘れない。
「ってわけで……火神君と黒子君、2人は明日から別メニューよ」
体格や身体能力から考えて、『お父さん』に対抗出来るのは火神だけだろうし、黒子は戦力アップの要だ。
ここは重点的に強化すべきポイントだろう。
カントクからの目配せもあり、どうやら遥が練習の指揮を取る回数も増えそうだ。
「予選本番は5月16日!!それまで弱音なんてはいてるヒマないわよ!!」
「「おう!!」」
*
それから時が経つのは早かった。
平日は勉学に励んだ後バスケ。
休日は1日中バスケ。
火神と黒子は別メニューもこなし、他のレギュラー陣はより気を引き締めて己の技を磨いた。
そしていよいよ、5月16日の土曜日、午前8時。
新協学園との試合の日となった。
「全員揃ったわね!」
睡眠不足だと見てすぐ分かる火神がやや心配ではあるが、全員清々しいやる気に満ちた表情での集合である。
「行くぞ!!」
遥は学校指定の鞄を抱え直した。
中身はいつもと同じものだが、他にもやる気をありったけ詰め込んでいる。
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