「ただいまー」
と、聞き覚えのある声に皆がそちらへ顔を向ける。
「カントク帰ってきたな」
「リコお疲れ様。おかえり」
偵察のため、部活を留守にしていたカントクが戻ってきたのだ。
しかし、その表情はどことなく暗い。
「海常の時はスキップしてたけどしてねーな」
「カントク、今日はスキップとか…」
カントクは不機嫌を露に、1年生たちに返事を返した。
「するか!!」
そのあまりの形相に、1年生は竦んでしまっている。
どうやら偵察で何かあったらしい。
日向は呆れた様子で言った。
「公式戦でもヘラヘラしてるワケねーだろ。…にしても機嫌悪ーな。強いのか相手?」
「……ちょっとやっかいな選手がいるのよ。とりあえずビデオはあとで見せるとして、まず写メ見て」
自身の携帯を日向に託すと、カントクは片手で顔を覆ってしまう。
彼女が言うからには相当厄介な相手なのだろう───と、携帯を操作していた日向が目を見開いた。
「…これは!」
遥も日向に寄り添うと、写真が表示されている手元に注目する。
そこに映し出されていたのは───
「かわいいが……」
日向を虜にしてしまう程、とても愛らしい猫だった。
体を丸め、カメラ目線なのがまた憎らしい。
「え、リコ、この猫ちょー可愛いね。別の写真ある?」
遥の質問には答えず、カントクは日向に操作を促す。
「……ゴメン次」
「次?」
言われた通り、日向は隣の写真を表示した。
「……!?」
目の前の『彼』の姿に、さすがの遥も口を噤む。
勿論ルール上何の問題もないし、けして倒せない相手ではないはず。
だがこれは確かに厄介だろう。
「名前はパパ・ンバイ・シキ。身長200cm、体重87kg。セネガル人の留学生よ」
携帯のディスプレイいっぱいに表示されている黒人の彼は、無表情で何処か遠くを見ていた。
「セネガ…でかぁ!!」
「アリなの!?」
「留学って……てゆーかゴメン、セネガルってドコ!?」
写真を見た部員たちは口々に叫ぶ。
何処にある国かは分からないが、とにかく次の対戦相手は200cmの長身であるセネガル人。
体格的に不利な日本人の中に混ざる200cmの体は、それこそ壁のように立ちはだかることとなるだろう。
現在、誠凛メンバーで最高身長は火神の190cm。
おそらく長身の彼とマッチアップするであろう火神本人は、「でかいだけじゃん?」と相変わらずの前向き思考ではあるが、その『でかいだけ』が厄介なのである。
知り合いに長身選手がいる黒子や遥はまだしも、他の誠凛メンバーは少なからず戸惑っているようだった。
「このパパ・ンバイ…なんだっけ?」
「パパ・ンバ……」
どうやら、厄介なのは身体的特徴だけではなかったらしい。
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