「行ってらっしゃい。怪我しないようにね」


手を振りながら後輩たちを見送る遥の隣で、心配性の水戸部はそわそわはらはらと落ち着かない様子である。

その彼の良き理解者である小金井は、対照的に緊張感のない笑顔だ。


「………」

「いつも心配しすぎだよ水戸部ー。オカンか!」


1年生の姿も見えなくなり、日向は溜め息を吐くとカントクを見やる。


「…ったく、何がちょっとだよ」

「えー?」

「………」


カントクの可愛らしい笑顔に、日向は言葉を失った。

彼が言う通り、『ちょっと混む』は激しく間違いなのだ。


「これから毎年1年生の恒例行事にするわよ」

「マジか…」


どうやら、1年生が代々あの荒波にもまれることは確定のようである。


「あ、じゃあそろそろ私も飲み物買ってくるね」


そう告げると、購入係を買って出ていた遥は1人歩き出した。

残された2年生はこの後、1年生の無事を祈りつつ屋上で帰りを待つのだが、戦場と呼ぶに相応しい売店から生還した後輩たちを労うのもまた先輩の役目だろうと、彼らの飲み物を用意しておくという話になっていたのだ。


「待て七瀬、オレも行く」

「オレも行こうかな」

「………」

「じゃあオレも行くー…って、もう皆で行こーぜ!」

「そうだな」


口々に言いながら、部員たちはぞろぞろと遥を追い抜いた。


「荷物持ちの心配はしなくて良さそうね」


目を丸くしていた遥の肩に手を置き、カントクは片目を閉じてみせる。


「……そうだね」


自分より大きな仲間たちの背中を眺め、遥も笑みを見せながら頷いた。









屋上のフェンス前にしゃがみこんで下を眺めていた遥は、待ちに待った扉の開く音が聞こえたと同時に振り返った。


「買ってきま…した…」


すっかり体力は削られてしまっているように見えるが、無事に目当てのものは購入出来たらしい。


「おつかれー。ありがとっ」


軽い調子で声をかけると、カントクは用意しておいたジュース片手に迎え入れる。


「こ…これ…例の…」

「あー、いーよ。買ってきたオマエらで食べな」

「え?いいんですか!?」

「いいって。遠慮するなよ」


購入した例のパンを掲げた1年生たちは驚いている様子だが、2年生は彼らを本当に使い走りにしたわけではない。

集合した際説明した通り、パン購入の目的が景気付けなのは確かだ。

しかし、最初から1年生たちに食べさせるつもりでの『お使い』だったのである。


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