「じゃっ、オレはそろそろ行くっスわ。最後に黒子っちと一緒にプレーもできたしね!」


上着と鞄を手にした黄瀬の笑顔は、無邪気でどことなく清々しさを感じさせるものだった。

彼が黒子を尊敬していたのは事実であるし、彼なりに蟠りを消化したのかもしれない。


「あ、センパイ、また連絡するっス」

「うん、分かった」


遠ざかる彼に返事をしながら、遥は片手を胸の前で振って見送る。

続いて、黄瀬は火神に叫んだ。


「あと火神っちにもリベンジ忘れてねっスよ!予選で負けんなよ!!」

「火神っち!?」


聞き慣れないあだ名に総毛立つ火神。


「黄瀬君は認めた人には『っち』をつけます」

「やだけど!!」


傍らの黒子のフォローの通りなのだが、おそらく彼と黄瀬が相容れることはないだろう。

遥は再度苦笑い。

誠凛1年エースの火神大我は、様々な意味でとんでもない人物のようだ。


「あっ!!いたー!もう!!」

「リコ!」


遠くから聞こえた友人の声に、遥は慌ててそちらを見やる。

顔の前で両手を合わせ、誠心誠意謝罪するが、当然弁解の余地はない。


「ごめんね。ちょっと色々あって、声かけるどころじゃなかったって言うか…………………ごめんなさい」


どんな事情であれ、本来ならとっくに帰路についている時刻である。

後続の日向をはじめとする部員たちも、『キセキの世代』である黄瀬涼太を率いる海常との白熱した試合で疲れているだろうし、早く帰りたいという気持ちも大きいはずだ。

今彼女に出来ることは、中学絡みの話は有耶無耶にして、ただ謝罪するだけだった。


「テツヤ…」


処罰が確定している黒子に注意を呼びかけようと遥は振り返ったが、真剣な面持ちの後輩たちの姿にすかさず口を噤む。


「…それに、いつも主役と共にある。それが黒子のバスケだろ」


やはり火神はとんでもない人物だ───と、遥は表情を緩めた。


「まあいいわ。とにかく黒子君よ」

「あっ…」


リコは遥を通り過ぎ、火神と話し込んでいる黒子の方へ颯爽と向かっていく。

お怒りのカントクによって、容赦なく逆エビの刑に処されることとなった黒子は、音のない悲鳴を上げた。

他の部員たちは何処吹く風、全員揃って見て見ぬふりである。

こうして、海常高校との練習試合は誠凛の辛勝にて幕を下ろしたのだった。




END


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