一拍間を置いてから、遥の前にいた火神が動いた。


「テメー何フラフラ消えてんだよっ」


背後からど突かれた黒子がつんのめる。

火神は標的を黒子から黄瀬へと移した。


「…よう」

「…聞いてたんスか?」


誠凛エースと海常エースが盛り上がっている隙に、遥は捜し求めていた黒子へ駆け寄る。


「…遥先輩」

「先に帰っちゃったのかと思った」


おそらく謝罪しようとしたのであろう、黒子が口を開いたとき、何やら喧しい声が耳に付いた。


「んだよクソ、なんかウジャウジャいんじゃん」


見るからに柄の悪そうな学生と、先にプレイしていた学生がコートの使用について揉めているらしい。

少し様子を窺っていると試合を始めたのだが、後から来た学生は最初から真面目にするつもりがないようで、不平等・不誠実なプレイだけでは止まらず、とうとう暴力まで振るいだした。


「ちょっと行ってきます」


そう言うと、黒子はそそくさとコートへ足を向ける。

遥も急いで後を追った。


「どう見ても卑怯です」


コートに到着するや否や、立てた指の上で回したボールを相手の鼻先に突き付ける黒子。

摩擦で焼かれた鼻を押さえ、同い年程と思われる青年は後退する。


「アッツ…!!?ってかなんだテメ…どっからわいた!?」

「そんなバスケはないと思います。何より暴力はダメです」


動じない黒子は淡々と言ってのける。

遥は後ろから彼の上着を優しく引いたが、彼女自身ここで退くつもりはなかった。


「はぁ!?いきなりなんだテメー!?」


いきり立った別の青年が、声を荒げながら黒子の襟元を鷲掴む。

反射的に畏縮した遥だったが、落ち着いた頭で静かにタイミングを見計らっていた。


「ハッ、ハハッ、いんだね今ドキ。いーぜ別に。じゃあバスケで勝負してやるよ」


遥に視線をやりながら、黒子のせいで鼻先を赤くした青年が嫌らしく笑う。


「何なら後ろの女の子……て」


遥を見ていたはずの瞳がその奥を見つめ、硬直した。

不思議に思った遥が振り返る前に、彼女の肩に手が置かれる。

上から降ってくるのは、心地好い響きを持つ声。


「あのー、オレらもまざっていっスか?」

「つーか何いきなりかましてんだテメー」


黒子に軽い説教をしてから、火神は正面で怖じ気付いている青年らを見下ろした。


「5対3でいーぜ。かかってこいよ」

「なんだとっ…」


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