体育館からそう離れていないだろうと見当をつけて走っていると、見覚えのある、だが同時に見覚えのない姿が視界に入った。
すらりとした体躯に、緑の髪。
隣にいるリアカー付き自転車を押している黒髪の少年も、同じ制服を着ているところから考えて、彼の友人だろうか。
「真太郎…!」
「七瀬先輩…!?」
思いがけないタイミングでの後輩との再会に遥は目を丸くしていたが、それは相手も同じようだ。
「久しぶりだね。もしかして見てた?」
「お久しぶりです。…最後だけですが」
几帳面にテーピングが施されている利き手で眼鏡の位置を調整しつつ、遥の中学時代の後輩であり、『キセキの世代』のNo.1シューターと名高い緑間真太郎は答えた。
「え、真ちゃん知り合い?ヤケに仲いーじゃん」
「だまるのだよ高尾」
緑間と遥を交互に見ながら口を挟んできた少年を一蹴し、緑間は一息吐く。
高尾と呼ばれた彼は、頬を膨らませると遥へ向き直った。
「誠凛のマネージャーさんっすよね。同中は『マネッ子』と『カゲ薄い子』しか聞いてなかったんすけど……もしかして」
「あ、うん。元帝光のマネージャーだよ。真太郎の1つ上だけど」
「やっぱり!って、あれ?それって…」
『1つ上の帝光マネージャー』に思い当たる節がある辺り、どうやら高尾もバスケ経験者らしい。
緑間の性格を考慮すると、彼とつるんでいる時点で相当な実力者とも予想出来る。
「もういいだろう」
苛ついた様子で一刀両断した緑間をものともせず、高尾は肩を竦めてみせた。
「ハイハイ、2人きりがいいってことね。リョーカイ、邪魔者は先に校門行ってまーす」
「高尾!」
手慣れた様子で緑間をあしらうと、高尾は遥に目配せしてから自転車を押して去っていく。
緑間は大きく息を吐くと、再度眼鏡のブリッジを押し上げた。
「また近いうちに試合で会うことになるでしょう」
「敵だけど、真太郎の3P期待してるよ」
「『人事を尽くして天命を待つ』───オレのシュートは落ちません」
遥は、緑間の手中に大人しく収まっているカエルのオモチャに目をやった。
本人が言った通り、彼は『人事を尽くして天命を待つ』人物である。
更に、おは朝と呼ばれるTV番組の占いを毎日確認し、その日のラッキーアイテムを欠かさず持ち歩いて運勢を補正するという徹底ぶりなのだ。
「ラッキーアイテムも相変わらずみたいだし、変わってなくて良かった。試合以外でもまた会えたらいいね」
「時間がある時にでも、是非。…では、そろそろ失礼します」
「うん、またね」
丁寧に頭を下げ、緑間も高尾の後を追っていった。
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