これで一通り終了、後は黒子を病院に連れて行けば、とりあえずは一段落といったところだ。
遥の脳内は、すぐに黒子のことに切り替えられた。
おそらく何ともないと診断されるはずだが、念には念を入れるべきだろう。
「……遥先輩」
静かに声をかけられた遥は、黒子の方へ顔を向けた。
「黄瀬君の」
「気にならないって言ったら嘘になる」
聞き覚えのある名が出た瞬間、遥は彼の話を遮るように話し出す。
黄瀬がこの場にいないことには気付いていたし、どんな理由で姿を見せないのかも察しはついていたが、だからと言ってどうすることも出来ない。
「やっぱり後輩は後輩だし…ね。でも、私今はもう同じチームじゃないから。このままテツヤと病院に行くよ」
黒子は眉を顰める。
彼には遥の心境も、そして初の敗北を味わった黄瀬の心境も読めているのかもしれない。
「遥」
そこに口を挟んだのはカントクだ。
そちらを見やると、他のメンバーも皆、遥と黒子を見つめていた。
「あくまで遥から見た返事でいいわ。黒子君の容態は?」
カントクからの質問に、遥は目を瞬かせる。
質問の意図が分からず、暫し躊躇ってから口を開いた。
「……あの後試合も出れたし今も大丈夫みたいだけど、脳震盪は素人目で判断出来ないから私には何も言えない。異常なしって診断でも今日は家まで送るつもりだし、出来ればお風呂は避けてほしいとは思ってるけど」
脳震盪は、下手をすれば死に直結するものである。
ぱっと見たぐらいではその危険度は分からず、大丈夫だと思って放っておいたら数日後に大事に至った、という例もあるぐらいだ。
「…わかったわ。じゃあ、それまでに戻ってきてね」
「へ?」
考える仕草を見せたリコから放たれた言葉を理解出来ず、遥は間抜けな声を上げる。
リコは溜め息を吐くと、微笑みながら言い換えた。
「黒子君、送って帰るんでしょ?それには間に合うようにね」
「リコ…」
日向たち2年生も、背中を押すように頷いてみせる。
黒子は今から病院に行かなければならないが、全員で付き添うつもりなため1人欠けても問題はない。
それは同時に、黒子を含む部員たちが帰路につくまで、まだ時間があるということにもなる。
「…ごめんね、皆。ありがとう」
遥は自身の鞄を抱え直すと、黄瀬を捜しに駆け出した。
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