遥は傍らに置いてあった自身の鞄を引っ掴むと、こちらへ戻ってこようとする黒子へ駆け寄った。
部員たちも慌てて、出血している黒子に声をかける。
「大丈夫か黒子!?」
「……フラフラします」
だが遥が処置をするより先に、彼が力尽きる方が早かった。
「おい…大丈夫かよ!?」
「大丈夫です。まだまだ試合はこれからで……しょう…」
「黒子ォ────!!」
火神に「大丈夫」と返事をした矢先、黒子はその場にぐったり倒れ込む。
日向の叫びが響き渡った。
遥は息を飲んでから方向転換、仲間たちによってベンチに寝かされた黒子に駆け寄ることとなる。
学校指定の鞄から取り出したのは、ミネラルウォーターのペットボトルと真っ白なタオル。
ペットボトルの封を切り、タオルに素早く水を染み込ませると、黒子の額から頬までを優しく拭っていく。
「…テツヤ」
救急箱も到着し、的確に処置を施していきながら、遥は黒子に声をかけた。
しかし返事が出来る状態ではないのか、返ってくるのは沈黙。
『脳震盪』───遥はそれの症状や処置方法など、自身が知る限りのことを凄まじい速さで思い起こした。
「…どうする」
遥の後ろから聞こえた相談の声は、カントクに向けられたものだ。
出血もしており、動ける状態ではない黒子の交代は確定。
彼の具合も心配ではあるが、試合がこれで中止になるわけではない。
海常の度肝を抜いて点差を縮め始めていた今、要である黒子の離脱は痛手だ。
遥は振り返ってカントクに視線を送ると、緩く頭を振ってみせた。
カントクは伏し目がちに頷く。
「黒子君はもう出せないわ。残りのメンバーでやれることやるしかないでしょ!」
コート内の心配より今は怪我人優先だと、視線をまた黒子に戻そうとした遥だったが、リコの先、そしてその部員たちの先にいる黄瀬の姿が目に入った。
不安げにこちらを見ている彼は、故意ではないと言っても、黒子に怪我を負わせた張本人だ。
バスケは接触が多い競技であり、それ故怪我も多い。
黒子は勿論、誰もが不慮の事故だと分かっている。
熱くなりすぎず気は抜くな、そして切り替えて手を抜くな───そう声を投げ掛けたい衝動を抑え、遥は彼に背を向けた。
「OFは2年生主体でいこう!まだ第2Qだけど、離されるわけにはいかないわ」
カントクは的確に、黒子抜きの新たなスタイルを指示する。
黒子がいない間に火神を使うのは得策ではない。
となると、自然とOFは2年生主体───彼の出番となる。
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