遥はコート内の元チームメイトの会話を聞き逃さぬよう、耳を欹てた。
全てを体現するかのように握りしめた拳に、力が入る。
「………やっぱ黒子っち変わったっスね…帝光時代にこんなバスケはなかった」
黄瀬のこの発言は、遥が黒子から聞いていた話と合致する点があった。
『キセキの世代』と騒がれている帝光時代の後輩たちに、このような、1人では出来ない連係プレイはなかったのだ。
「…けど」
遥は息を殺して黄瀬の言葉を待つ。
「そっちもオレを止められない!そして勝つのはオレっスよ…!」
彼を覆うのは『勝利』へのこだわりか、それとも別のものなのか。
遥の脳裏に思い起こされたのは、中学時代の部活のスローガンである『百戦百勝』の四文字。
体にも心にも染みついている重くて厚い四文字が、奥底で鈍く深く軋んだような気がした。
「黒子っちの連係をお返しすんのはできないっスけど…黒子っちが40分フルに保たない以上…結局後半ジリ貧になるだけじゃないスか」
黄瀬が指摘する通り、特殊なプレイヤーである黒子には確かに制限がある。
いくら連係プレイで一矢報おうとも、黄瀬を止められなければ勝つことは難しいだろう。
彼の身体能力に太刀打ち出来る人物は、現段階の誠凛に存在しない。
ボールが黄瀬へ渡った。
「……そうでもねーぜ!」
意味深な火神の発言と、遥の笑みが重なる。
「何か不思議…」
思わず呟いた遥の和らいだ双眸を陣取るのは、彼女もよく知るプレイヤー2人。
こんな形で向かい合う彼らを目にすることになるとは、遥もさすがに予想していなかった。
スキール音と共に、黄瀬の足が止まる。
おそらく彼も、この光景にさぞ驚いていることだろう。
「なっ…」
ゴールへ向かおうとする黄瀬と対峙したのは、
「黒子が…黄瀬のマーク!!?」
パス回し以外コート上最弱であり、黄瀬の弱点かつ天敵でもある元チームメイト・黒子だった。
END
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