「クックック…ハッハ…」


黄瀬と何やら話していたはずの火神が、突如大声で笑い始めた。


「ハハハハハ……!!」


高らかに響き渡る笑い声に、一同愕然とした様子で火神を振り返る。

ゴールを壊した次は何を仕出かすのかと、遥も不安半分で彼を見つめた。


「ワリーワリー、ちょっと嬉しくてさァ…。そーゆーこと言ってくれる奴、久しぶりだったから」


何がそんなに面白かったのか、火神の目には涙も浮かんでいるようである。


「アメリカじゃそれがフツーだったんだけどな」

「え!?アメリカいたの!?」


黄瀬が感心しているように、アメリカはバスケの本場だ。

きっと火神は、日本とは比べ物にならないレベルのプレイヤーたちと切磋琢磨してきたのであろう。


「日本帰ってバスケから離れたのは早トチリだったわ。ハリ出るぜマジで。やっぱ人生挑戦してナンボじゃん」


火神の血気盛んな姿勢は、控えめと言われがちな日本人の中では1つ抜きん出ていると同時に、非常に頼もしくもあった。

そう簡単に折られるような部員はいないと分かっていたはずなのに───と、遥は不安を消し去るように頭を振る。

選手ではない先輩の余計な心配は、不要のようだ。


「強ぇ奴がいねーと生きがいになんねーだろが。勝てねェぐらいがちょうどいい」


彼ならば本当に、有言実行してくれるかもしれない。

今まで見てきた後輩とはまた一味違う彼に、期待は膨らむ一方だ。


「まだまだ!これからだろ!聞いてねぇゴタク並べんのは早ーんじゃねーの?」


挑発されたらしい分をしっかり返すと、火神は別の問題のせいで有耶無耶になってしまっていた話題を口にする。


「…おかげでわかったぜ、オマエの弱点。自分から言い出しづらかったのも、ちょっとわかるわ」


黄瀬涼太攻略に必要不可欠になるであろう、彼の弱点。

火神は言いながら辺りを見渡した。


「見ればできる?見えなかったら?そもそも元からウスいのが前提じゃ、やれって方がムリな話だろ」


簡単に言うならば黄瀬の『模倣』は、彼の特異な身体能力により、見たものをすぐに己のものにして返すことが出来るというものだ。

口で言うのは簡単なその模倣は素晴らしく、確かに目を瞠るものがある。

が、己のものにするためには、必ず見なければならない。


「いくら身体能力が優れてるオマエでも、カゲを極限までウスめるバスケスタイルだけはできない」


火神はもうすっかり、物理的にも答えを掴んでいるらしい。

首根っこを掴まれた黒子が火神の前───対峙する黄瀬の前へと招かれた。


「…つまり黒子だろ!」


黒子が言い淀んだ黄瀬の弱点は、その黒子本人。


「これでどうなるか…」


だが弱点を理解していても、攻略出来なければ意味はない。

遥はベンチに腰掛けたまま、後輩たちに視線を送り続けた。




END


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