「黒子君シバいて終わっちゃった───!!」
貴重なクールダウンタイムを有効に使えないまま、選手たちはコートへ戻っていく。
遥も慌ててベンチを片付けたりと、自身の仕事をこなし始めた。
「このままマーク続けさせてくれ…ださい。もうちょいでなんか掴めそうなんス」
「あっちょ待っ…火神君!もう!」
ろくに戦法は組み立てられなかったが、リコは歩み出す選手たちの背に向かって指示を飛ばす。
「…とにかくDFマンツーからゾーンに変更!中固めて黄瀬君来たらヘルプ早めに!黄瀬阻止最優先!!」
「「おう!」」
的確な指示を聞きながら、遥はコート内を見て僅かに目を細めた。
確かに黄瀬は要注意人物だが、黒子の弱点は向こうにもバレているはず。
少し気を取られすぎてはいないだろうか───。
「あと黒子君はちょっとペースダウン。思いきり点差引き離されない程度に。できる?」
「やってみます」
試合は海常ボールから再開だ。
PGの笠松は誠凛陣を見やると、その場からシュートを放つ。
ボールは綺麗な放物線を描き、ゴールへ吸い込まれていった。
「おお、一蹴の3P!!」
「いいぞいいぞ笠松!!いいぞいいぞ笠松!!」
相手は全国レベル、やはりそう簡単に攻略させてくれそうにない。
火神が挑めば黄瀬に止められ、次第に黒子もスティールされ始めるようになった。
遥は祈るように手を組んで、鋭い眼差しをコートへ向け続けている。
アメリカ仕込みな誠凛期待のエース・火神。
その火神と対峙する『キセキの世代』の1人・黄瀬。
そして存在感が徐々に大きくなってきている誠凛期待の影・黒子。
誠凛2年や海常レギュラーの活躍を差し置いて、この試合はルーキー3人が要となるだろう。
しかし、誠凛からすれば悔しい話だが、どう考えても海常が優勢と見るのが妥当である。
「涼太いなくてもキツいのに…」
遥の脳裏に負の考えが過ぎった。
キセキの世代が加入した強豪校に太刀打ち出来る力、何かきっかけはないのか───。
まだ許容範囲内ではあるが、点差が徐々に開き始める。
「アウト・オブ・バウンズ!!白ボール!!」
ゴール前、ダンクを決めようとした火神のボールが黄瀬により弾かれ、試合は一時中断となった。
そのタイミングで、ルーキー同士は何やら話をしているらしい。
遥のいるベンチまで会話は聞こえないが、けしていい雰囲気ではない。
「…………」
彼女の知る黄瀬は、自分が認めていないものを見下す傾向がある人物だ。
素直な感想を突きつけている可能性は十分考えられる。
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