「誠凛TOです」
その声でベンチに戻ってきた選手たちの疲労は、まだ開始5分にも関わらずかなりのものに見えた。
「火神くん、涼太どう?」
タオルを渡しながら遥が訊ねると、火神は礼を言ってから僅かに首を傾ける。
「………まあ、負ける気はねーよ、です」
火神の答えは、明確な勝利宣言でも相手を認める発言でもない。
勿論言う通り負ける気はないのだろうが、活路は見出だせていない様子だ。
「うん。負かしちゃって」
要件のみを返すと、遥はまたマネージャー業務を再開する。
タオルとドリンクでクールダウンしてはいるが、選手たちの疲労は色濃い。
スタメンの2年陣も笑みを見せてはいるものの、苦笑気味だ。
「テツヤ」
最端で1人静かに息を整えていた黒子は、遥の声に顔を上げる。
「やっぱり厳しい?」
「はい。…わかってはいましたが」
「でもテツヤと火神くんのプレイなら、太刀打ち出来ると思うよ。うちの2年だって結構強いしね」
黒子は表情を変えずに静かに頷いた。
「はい。がんばります」
短い会話を終えた遥が海常ベンチへ振り返れば、監督は説教の真っ最中らしく、怒鳴り声が耳に付く。
誠凛も点を取られているが、格上のはずの海常もほぼ同じだけ点を取られているのだから、当然と言えば当然だ。
「とにかくまずは黄瀬君ね」
「火神でも抑えられないなんて…」
「もう1人つけるか?」
カントクを中心に、戦法のミーティングが始まった。
相手得点源の黄瀬は絶対抑えておきたいところだが、誠凛エースの火神でも今のところやられっぱなしである。
ここをどうにかしなければ、勝利は見えてこない。
「なっ…ちょっと待ってくれ…ださい!!」
不自然な敬語で意見を述べようとした火神を遮るように、黒子は口を開いた。
「…いや、活路はあります」
元チームメイトの黒子だからこそ言える、黄瀬攻略の活路。
「彼には弱点がある」
その弱点に遥は思い当たる節があったが、それよりもう1つ懸念があった。
黄瀬涼太に弱点があり、黒子がそれを知っていると同時に───黒子テツヤにも弱点があり、黄瀬がそれを知っているという懸念が。
END
← return
[3/3]