「それではこれから、誠凛高校対海常高校の練習試合を始めます」


審判の声と共に、両校のスタメンが整列する。

そこに黄瀬の姿はない。


「…や、あの…だから始めるんで…誠凛早く5人整列して下さい」

「あの…います5人」

「「……おおぇ!!?」」


審判の一番近くにいたにも関わらず認識されていない黒子に、海常メンバーも驚いているようだ。

本人自覚済みの影の薄さはお墨付きである。

彼を目の前にしている海常メンバーは勿論、監督の武内も馬鹿にした様子で黒子を見ていた。


「テツヤに対する反応は、あれで正解だよね」


誠凛ベンチの一番端、カントクと反対側に腰掛けてやり取りを見守っていた遥は独りごちる。


「まあ確かに…まともじゃないかもしんないスね」


それは、数メートル離れた海常ベンチから黒子を見つめる黄瀬の意味深な呟きと重なった。


「どしたんスかカントク…?」


位置につく部員たちを凝視しているリコに、1年生が声をかける。

が、聞こえていないのか彼女は返事を返さない。


「どしたのリコ。数値?」


身を乗り出して遥が訊ねると、カントクは視線はそのまま小さく頷いた。

彼女の瞳にどんな数値が映し出されているのか知る由もないが、きっと相当な高さなのだろう。


「んじゃまず一本!キッチリいくぞ!」


試合開始のジャンプボールを制したのは海常。

4番を背負う全国レベルのPGにボールは渡った。

が。


「なっ…」


突如現れた影がボールを叩いた。


「にぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?」


ボールをものにした影は、そのままコートを駆け抜けていく。

不意に主導権を奪われた4番がすかさず走れば、けして速くはない影───黒子はすぐに追い付かれてしまった。


「いっちゃえ!」


遥が叫ぶとほぼ同時に、黒子の手元のボールが併走していた火神に渡る。

飛び上がった火神は、渾身の力で得意のダンクをぶちかました。

そのパワーを示すように、激しい音を立ててゴールを決めた彼の手には───


「お?」


見覚えのあるバスケット。


「おお?」


それはつい先程、火神のダンクを受けたもののはずだ。


「「おおおぇぇ〜〜!?」」

「「ゴールぶっこわしやがったぁ!!?」」


口をあんぐりと開けたままリング片手の彼を見つめているのは、遥だけではないだろう。


「『いっちゃえ』とは言ったけど…」


火神がダンクを決める少し前にそう叫んだのは間違いなく遥だったが、一体誰がゴールを破壊すると思っただろうか。

驚愕のため絶句している海常ベンチに向かって、誠凛期待の影は言った。


「すみません、ゴール壊れてしまったんで、全面側のコート使わせてもらえませんか」




END


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