休日だろうが、誠凛高校バスケ部には関係ない。
むしろモチベーションが上がる恐ろしい試合を見せつけられた熱がまだ冷めていないのだ。
遥からすればかつての後輩同士の戦いで、同時に遥自身の過去と今の戦いでもあったのである。
用事のため最初から練習に参加出来てはいなかったが、今日程練習が待ち遠しい日はないというぐらい、遥は清々しい気分で体育館の扉に手をかけた。
「おはようございま───」
「おはよ、遥。ちょうど今からゲームだからよろしくね」
「わんっ!」
「………………………犬?」
大きな目、それもどこかデジャヴを感じるような目が遥を見つめている。
面食らった様子の遥を出迎えたのは、カントクと部員だけではなかったのだ。
「リコ、この子可愛いけど、どうしたの?しかも何か…凄く引っ掛かるんだけど」
「ああ、黒子君が拾った子なの。ソックリでしょ」
「あ、そうだ、この目テツヤだ。だからか…」
遥が手を伸ばしても嫌がる様子は見せず、その体を撫でさせてくれる辺り穏やかな性格らしい。
そしてこの黒子によく似た瞳の犬は、遥達の予想より賢く、練習風景に合わせて吠えたりと、バスケを理解しているようである。
そんな姿に皆心を許し可愛がっていたが───1人おかしな動きをする者がいた。
「かよっ!!」
本番さながら白熱するゲーム形式での練習中、シュートモーションに入った火神に合わせ、
「わんっ!!」
と高らかな声が響く。
するとボールは手からすっぽ抜け、あらぬ方へと放り出されてしまった。
火神は犬が苦手なのだ。
犬は苦手だが、彼は動物を雑に扱うような人ではないし、チームメイトの黒子に似ているということもあって、何とも言えない、そして出来ない状況なのだろう。
マネージャーとして部員達を観察している遥はすぐそれを察することが出来たが、だからと言っていい解決策が浮かぶわけでもない。
正直今は、火神に慣れてもらう他に策がないのだ。
「テツヤ2号って、本当にテツヤ2号って感じだよね」
「そうだな…ですね」
休憩中、黒子達が2号と戯れ始めたのを横目に遥が動いた。
そちらに目を向けた火神も、苦手ではあるものの気になるようで、まるで大型犬が小型犬を遠巻きに見ているようである。
汗を拭うためのタオルで口元を隠して何か言い淀んでいる辺り、仲良くなろうというつもりはあるのだろう。
「多分咬まないと思うし、撫でに行ってみる?」
「いやそれは…オレはいいっす」
「もふもふだよ?」
「もふもふ…すか」
犬が平気な部員達に囲まれた2号は尻尾を左右に振り、人間かのように喜怒哀楽を見せていた。
時折本当に言葉が分かっているのではと思うような行動もして見せるのだから、実はかなり優秀な犬なのかもしれない。
「ねぇ、遥。ちょっと」
「どうしたの?」
カントクに手招きされるままに歩み寄れば、ニヤリと音が聞こえそうな程の満面の笑みが返ってくる。
それこそ、今にも鼻歌付きでスキップしそうな勢いだ。
「せっかくだし、2号のユニフォーム作らない?」
「いいね。簡単に作れるかな?」
「まぁ型紙さえ作っちゃえば、どうにかなるでしょ」
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