「よしやろっか!いいもん見せてくれたお礼。センパイ、これお願いしますっス」
「あ、うん。ってまさか…」
遥に上着とネクタイを預けると、黄瀬は火神と向かい合った。
目の前には、記憶にある姿より幾分大きく見える背中。
その先にいる火神はどんな顔をしているのだろうか。
遥は黒子の方へ振り返るが、どうやら彼も同じ考えらしい。
「マズいかもしれません」
「え?」
『キセキの世代』の黄瀬涼太の才能を知らないリコが、疑問の声を上げる。
遥は向き合う2人に視線を戻した。
黄瀬は先程火神のプレイを見ていたのだから、その通りに動くはずだ。
「火神くん!」
遥が反射的に名前を呼んだと同時に、オフェンスの黄瀬が動いた。
マークしている火神を警戒しつつゴール下まで走り抜くと、フルスピードで切り返す。
「彼は見たプレイを一瞬で自分のものにする」
黒子の言葉通り、先程火神が決めたものと同じ動きで彼を躱し、そして───
「うおっ火神もスゲェ!!」
「反応した!?」
オリジナル以上のキレとパワーでダンクを決め、『元己の技』に食らいついていた火神を吹っ飛ばした。
「……涼太……」
見せつけられたのは明らかな力の差。
目の前の黄瀬涼太と記憶の中の黄瀬涼太との違いに、遥はか細く名を呼ぶしか出来ずにいる。
「これが『キセキの世代』…黒子、オマエの友達スゴすぎねぇ!?」
「……あんな人知りません」
「へ?」
「正直さっきまでボクも甘いことを考えてました。でも…数か月会ってないだけなのに…彼は…」
黒子たち後輩の会話を聞きながら、遥は震えを誤魔化すように胸の前の制服を強く抱き締めた。
「ん〜…これは…ちょっとな〜。こんな拍子抜けじゃやっぱ…挨拶だけじゃ帰れないスわ」
火神から黒子へと相手を移すと、黄瀬は真剣な面持ちで言う。
「やっぱ黒子っちください。海常おいでよ。また一緒にバスケやろう」
「涼太!」
間髪を入れず素早く発せられた制止の声に、黄瀬は困ったように肩を竦めてみせた。
「わかってるっスよ。ホントはセンパイとも一緒がいいけど…前に言ってた通り、誠凛には何かあるんスよね?」
「涼太…」
遥は唇を噛みしめると、もう一度強く、預かったままの制服を抱き締める。
「でもマジな話、黒子っちのことは尊敬してるんスよ。こんなとこじゃ宝の持ち腐れだって」
黄瀬は黒子へ振り返った。
表情が変わらない黒子が何を考えているのかは読めそうにない。
「ね、どうスか」
「そんな風に言ってもらえるのは光栄です」
本日3回目のやり取り。
「丁重にお断りさせて頂きます」
「文脈おかしくねぇ!?」
今度は丁寧にお辞儀もついての拒否だった。
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