遥は月明かりの下、一歩一歩踏み締めるように砂浜を歩いていた。
生暖かい風が髪を浚っていくが、波の音と自身の足音だけが響く静寂は想像以上に心地好いものである。
「……!」
暫くの間、纏わりつく暑さと闇を振り払うようにたっぷり時間をかけて歩みを進めていた遥の視界に、2つの影が入り込んできた。
薄暗い中でも十分見て取れるルーキーコンビは、揃ってTシャツに短パンという練習着のまま真剣な面持ちで向かい合い、何か大切な事項を紐解いているようだ。
「テツヤに火神くん」
「遥先輩…!」
遥が控えめに声をかけると、黒子は驚きを露わに目を瞠った。
それは火神も同様ではあったが、火神より遥と付き合いの長い黒子からすれば、こんな時間に彼女が1人砂浜に現れたのが余程意外だったのだろう。
「ごめんね、自主練の邪魔して」
「別に邪魔じゃねーよ…ですよ。つか、センパイこそこんなところで何してんだよ…ですか」
ふむ、と遥は火神の単純な問いに一呼吸間を空けた。
そしてその瞬間に選び出されたのは、間違いなく真実である。
「散歩…になるのかな?」
「疑問系なんですね」
たったその一言で、互いに察しているのだと気付いたのは、両者ともそう言う方面に長けているからだろうか。
「うん…ぶらぶらしてたら此処に出たから」
「いくら近辺とは言っても、女性が暗い夜道を1人でぶらぶらは危ないと思います」
「……ごめんなさい。でも途中で高尾くんとか真太郎とかにも会ってるよ」
「途中なら意味がありません」
どちらが年上か分からない説教と言い訳に呆れたのか、火神は傍らで溜め息を吐いた。
しかも、素直な謝罪が返ってきたかと思うと良く知った面々の名が出たせいか、心なしか黒子の様子も変わったようである。
「…偉そうなこと言ってすみません」
「ううん。テツヤは心配してくれてるんだから」
遥がそう微笑んでみせれば、黒子も応えるように口端を緩めた。
熱を帯びた空気が、ゆっくりと間を駆け抜けていく。
「それで、2人は何か見つけたの?」
「まぁ…見つけたっつーか、やることは決まったっつーか。…です」
「僕も見えてきた気がします。火神君を含む、みんなを活かすバスケが」
「…そっか」
遥は口元に笑みを湛えたまま、うんうんと納得させるかの如く頷いた。
「期待してるよ、スーパールーキー」
「期待に添えるよう頑張ります」
「っす」
前だけを向いた4つの瞳が遥を捉える。
「………私も見つけないと」
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