いつの間にやらすっかり陽も落ち、いい時間になっていた。

予想より時間がかかりそうだからと場所を玄関へ移し、1時間程前にカントクにメールを送ってはいたものの、皆そろそろ風呂へ向かうような時間ではないだろうか。


「だー、終わった…!」

「よし、これで全部だね。おかえ…」

「ギャ────」

「!!!???」


長時間のおつかいを終えた後輩を労う前に、背後から飛んできた悲鳴に遥は息を止めて目を白黒させた。

悲鳴の正体はお風呂セットを抱えたカントク。

先に風呂に入ったのであろう、彼女の髪はしっとりと湿っているようだ。


「ギャーじゃなくて、今買い終わったんだよ…!です」

「今まで!?どーりで遥がいないと思ったら…」

「あ、もしかしてメール送ったの見てない?」

「えっゴメン、見てないわ」


先輩2人が仲良さげに会話しているのを横目に、ガコガコと缶がぶつかる音をさせながら、火神はおつかいの成果が詰まった袋を放った。


「どーせ飲むためじゃねーだろーけど…はい」


その袋の口からは、定番のスポーツ飲料からジュースまで多様なラインナップが覗いている。

ざっと数えても相当数なそれは、まさに『みんなの分』の飲み物だ。

汗だくで去っていく後輩の背を見送りながら、カントクは苦笑しながら言った。


「さすがって言うか何て言うか……凄いわ遥」

「私何もしてないよ?走って買ってきたのは火神くんだし」

「そーゆーこと言ってないわよ。やっぱり遥にコッチを任せたのは正解だったわね」

「何もしてないのに?」

「アレを『何もしてない』と言い切れるのが凄いわ」


カントクは褒めてくれているようだが、遥には特に何かをした覚えはなかった。

ただ朝食後に説明された通りにおつかいを見守っていただけであって、 別メニューを文句も言わずこなしたのは火神なのである。

彼の現在の体力、身体能力を考慮した上で数分の休憩を挟んだり、場所を変えて栄養補給を促したりはしたが、だからと言って遥からすればカントクを唸らせる程の行動ではないのだ。

あくまで、自分に出来ることを出来る範囲で実行しただけなのである。

自虐にも似た嘆息を漏らすと、遥は火神が置いていった袋へと手を伸ばした。

取り出したのは、彼女愛飲のスポーツ飲料。


「ねぇリコ、これもらっていい?」




END

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