朝からの砂浜練習後、疲労困憊な誠凛バスケ部の面々は、カントクの予定通り秀徳の待つ体育館へと足を踏み入れた。
「今日から体育館練習は予定変更で、秀徳高校と合同練習よ!」
「えええ!?マジで!?」
いきなり告げられた王者との合同練習に動揺を隠せないまま準備へ向かう部員たちの傍らで、カントクは密かに今回の主役へと声をかける。
その隣には、別メニューの管理と監視を任された遥の姿もあった。
「あ、火神君はちょいまち!ちょっとみんなの分の飲み物買ってきて!」
「は?」
「砂浜走って500m先のコンビニまで!」
「そんなに遠くはないけど、気を付けてね。行ってらっしゃい」
「なんで!?」
にこやかに微笑む先輩女子2名を前に、火神の尤もなツッコミが飛ぶ。
「でも重いだろうから1本ずつでいいわよ」
「それ何往復!?」
「私がちゃんと数えておくから大丈夫」
「どこが!?」
「みんな練習してるんだから早くね!」
「じゃあパシリさせんなよ!!…でください!!」
「火神くんが寂しくないように遥についといてもらうから。後お願いね」
「うん、ご主人様として頑張るね」
「何の話だよ!!…ですか!!」
怒涛のツッコミに項垂れた火神の肩に、柔らかく小さな手が触れた。
「ごめんね火神くん。おつかいなんか頼んで」
「………いや、別に………」
すっかり毒牙を抜かれた火神が顔を上げれば、遥は優しく微笑み返し、彼の腕を引く。
そのままいそいそと移動したのは、指定されたルートである砂浜だ。
未だに太陽が激しく照りつける海岸は、下からも上からも体力を奪っていく。
「この辺りでいいかな…パラソル用意しとくから、無理ないように買ってきてね」
「っす」
物分かりのいい火神も軽くストレッチをすると、大人しく走る準備に入っている。
そんな彼を横目に準備に取り掛かっていた遥だったが、ふと落ちた影に顔を上げた。
影の正体は火神であったが、唇を引き結び何やらもごもごしているように見える。
「どうしたの?もう出発する?」
「行く、けど、その…何飲みたいんだよ……ですか」
「?」
「だから、最初はセンパイが飲みたいの買ってくるって言ってんだよ、ですよ」
一瞬きょとんとした遥だったが、次の瞬間口から飛び出したのは、ある意味予想通りの注文だった。
「経口補水液かな」
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