「味噌汁は遥が作ったのか?」
「そうだよ」
「そうか。じゃあ『いつもの味』ってわけだ」
「鉄平の『いつもの味』はおばあちゃんの味でしょ」
「それもそうだが……遥の味ももう『いつもの味』さ」
「どこの夫婦だオマエら」
溜め息たっぷり、ついでに眉間の皺もたっぷりな日向のツッコミが決まる。
「でも実際、遥はいい奥さんになりそうだよな。…ハッ、空気が読める嫁、奥さんが朝食を作っておくさ」
「伊月ダマレ」
伊月へのツッコミの次はまた木吉───そうこうしているうちに、緑間と火神の件を片付けたらしいカントクや1年生たちがやってきた。
大量の朝食に顔面真っ青な1年生たちに同情はするものの、アスリートとして必要な言わば洗礼なのである。
───だが本当の地獄はこれからのようだった。
山盛りの朝食を泣きそうになりながら頬張る1年生を横目に、一足先にほどほどの量の朝食を食べ終えた遥は空の食器を手に席を立った。
すると、同じように朝食を食べ終えたカントクも立ち上がりながら口を開く。
「ごちそうさま。今日も9時から浜辺ね!」
「どっか行くのか?」
「ん──ちょっとね。遥も来てくれない?相談があるの」
木吉の問いに言葉を濁した点を気にしつつも、頷いた遥はカントクと共に食堂を後にする。
すると何が愉快なのか───隣の彼女はご機嫌にスキップをしているではないか。
「何かいいことあったの?」
「フフ…今から秀徳に合同練習を申し込んでこようと思うの」
「秀徳に?」
遥の脳裏に誠凛のメリットが浮かぶ。
いや、正確には浮かんでこなかった。
普通に考えれば、明らかに向こうの方に利益がある。
誠凛のメリットを強いて挙げるとすれば、格上な王者相手に挑戦する機会、見て学ぶ機会が出来るというところだろうか。
「相手は王者…見て学ぶには持って来いの相手だね。でも、それでどうにかなる?」
「まぁ…賭けっちゃ賭けね。ちなみに火神くんは別メニューにするつもりだから、遥はそっちをお願いね」
「別メニューって…私にどうにか出来ること?」
「ちょっと買い出しお願いするだけだから。忠犬のご主人様は遥が適役よ」
忠犬と言うよりは忠猫、人に害を加えない猛獣ではないか───。
可愛らしくウィンク付きで言ってみせたカントクに、遥はただただ頷くしか出来なかった。
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