「遥ー、こっちは間に合いそうだけど、そっちは?」
「後ちょっとー」
台所でせかせかと大量の朝食を作るのは、揃いのエプロン姿の誠凛バスケ部カントクとマネージャーの2人だ。
早起きして取りかかった、人に食べさせることが出来るレベルの朝食は、もうほとんど出来上がっている。
手慣れた様子で鍋に蓋をすると、遥は濡れ布巾片手にテーブルへと近付いた。
「七瀬ちゃん、おはよー」
「あ、おはようコガくん、ツッチーくん、凛ちゃん」
遥に声をかけながら食堂に入ってきたのは、誠凛2年トリオだ。
「おはよう、手伝うよ」
「…………」
「ありがとう、助かります」
練習の疲れを感じさせないような様子で朝食の手伝いを買って出た3人は、遥から布巾を受け取るとテキパキと動き始める。
いそいそと再び台所に戻った遥はご飯茶碗を手にしたが、その手をすぐに止めたのは、此処にいるはずのない聞き覚えのある彼の声だった。
「なぜここにいるのだよっっ!?」
「こっちのセリフだよ!!」
中途半端に茶碗に盛られた白米は、炊きたてらしくきらきらと輝いている。
「それがお前らはバカンスとはいい身分なのだよ…!!」
「バカンスじゃねーよッ!!」
耳に届くのは、どう考えても過去の後輩と今の後輩の声だ。
ほかほかとした湯気が立ち上る茶碗を置くと、遥はエプロンに手をかけながら言った。
「リコ、私ちょっと見てくるね」
「あー、いいわ遥。私が行くから此処任せていい?」
「分かった」
あの声───緑間と火神が言い争っているなら、自分より流れを断ち切ることが出来るリコの方が適役かもしれない。
そう判断しての二つ返事だったのだが、食堂を出て行く彼女の手にある物が握られているのを見てしまった遥は、1人不安を抱えることとなった。
「ちょっとリコ、包丁は置いていった方が……」
「遥ー」
「はーい」
続いて後方から届いた声に遥が振り返れば、いつの間に来ていたのか、味噌汁の入った大鍋を覗き込む木吉の姿が。
定番な具材の定番な味噌汁を、彼はどこか嬉しそうに器に装っていく。
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