「あれ、懐かしいの持ってるね。それキセキの世代特集のやつでしょ?」
遥がふと目を向けると、見覚えのある表紙の雑誌を持っている部員がいた。
キセキの世代特集号のそれは、発売当初食い入るように隅々まで見尽くした雑誌である。
その部員が頷くと、遥は一瞬だけ宙を見てから話し出した。
「えっと……中学2年からバスケを始めるも、恵まれた体格とセンスで瞬く間に強豪・帝光でレギュラー入り。他の4人と比べると経験値の浅さはあるが、急成長を続けるオールラウンダー……だったっけ?涼太の記事。それ何回も読んだなー」
雑誌発売時にそれこそ飽きる程目を通した記事であったため、今でも文面を覚えていたらしい。
遥の暗唱にも驚かされたようだったが、面々はその内容に更に驚かされていたようだ。
「中2から!?」
記事の通り、黄瀬涼太がバスケを始めたのは、中学2年生からなのである。
途中入部にも関わらず強豪校でレギュラーを獲得、そしてキセキの世代と呼ばれているのだから誠凛陣が驚くのも納得だ。
「いやあの……大ゲサなんスよその記事ホント」
謙遜するように両手を振って否定すると、黄瀬は呆れ顔で続けた。
「『キセキの世代』なんて呼ばれるのは嬉しいけど、つまりその中でオレは一番下っぱってだけスわ〜。だから黒子っちとオレはよくイビられたよ」
先程と同じような流れに、やはり同じような表情で黒子は述べる。
「ボクは別になかったです」
「あれ!?オレだけ!?」
遥はそんな2人のやり取りを、一番近くで嬉しそうに見ていた。
現在は倒すべきライバルで、キセキの世代という敵に回したくないブランド持ちとは言え、やはり黄瀬が可愛い後輩に変わりはないのだ。
「───!」
突然視界が揺れ、されるがままの遥の目の前が暗くなったのとほぼ同時に、頭上で激しい衝突音が響く。
「っと!?」
慌てて顔を上げれば、高い位置にある黄瀬の顔が不満そうに何かを見ていた。
遥の肩から後頭部にかけては、庇うように彼の片腕が回されている。
「った〜、ちょ…何!?センパイもいるんだから考えてよ」
解放された遥が状況を伺えば、対峙する黄瀬と火神、そして自分のすぐ傍にいる黄瀬の手にはバスケットボール。
「せっかくの再会中ワリーな。けどせっかく来てアイサツだけもねーだろ。ちょっと相手してくれよイケメン君」
「火神!?」
「火神君!!」
咎める声が飛んでも治まりそうにない殺気のような気迫を見せる火神に、遥は大きく身を震わせた。
獲物を見つけたときの獣のような瞳が、彼女の隣の黄瀬に向けられている。
「え〜そんな急に言われても…あーでもキミさっき…」
怯む様子もなく、黄瀬は話しながら遥の前に歩み出る。
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