「もういいのか?」
「はい!」
駆け出した黒子が向かうのは、彼を信じてくれている今の相方の元だろう。
「テツヤ!」
活路を見つけた彼の背が消えてしまわぬうちに、遥は声を張り上げた。
「あんまり遅くならないようにね。行ってらっしゃい!」
「はい…!」
黒子が見えなくなるまでしっかり手を振り見送った遥は、シュート練習に戻った主将へ振り返る。
単純な練習ということもあるだろうが、彼のシュートは落ちていないようだ。
日向は手を止めることなく口を開いた。
「黒子のオカンか、オマエは」
「それはテツヤのお母様に失礼だよ」
「…………ああ、そう」
わざとらしく溜め息を吐いてみせた日向だったが、放たれるボールは綺麗な弧を描いたままゴールに吸い込まれ続けている。
マネージャー業務を再開した遥は、そんな彼を気にした様子もなく嬉しそうに微笑んでいた。
「さすが順ちゃんだったね」
「あー?まあ……七瀬も何かあるならすぐ言えよ。話聞くぐらいしか出来ねーけど」
「うん…ありがと」
たったこれだけのことだが、言いようのない安心感に包まれるのは何故だろうか。
誠凛バスケ部を支える彼は特段体格に恵まれているというわけでもないのに、その背中はそれは大きくそして今すぐ飛びつきたくなる程に温かそうだった。
甘えて縋って、自分の中の暗くて汚いものを全部全部溶かしてしまいたい。
「早速なんだけどね、背中抱き付いてもいい?」
「はぁ!!?」
頬を赤くし勢い良くボールを吹っ飛ばしながら振り返った日向は、次の瞬間頭を抱え唸りながらしゃがみ込んだ。
暫しそうしていたかと思うと今度はまた勢い良く立ち上がり、遥に来るように片手で手招きした。
とりあえず拒否ではなさそうである。
「順ちゃん?」
「あーもう、背中じゃなくて胸貸してやるっつってんだよ!さっさと来い!」
「うん…!」
お許しも出たところで温かい胸に飛び込んだ遥は、頬を擦り寄せ静かに目を閉じた。
END
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