「スタメンから外せだぁ?ベンチの奴らのことも考えろよ!んなもんオマエが言うな。言うならコッチから言うわ!」
「…でも」
「だーめったらだめだ」
黒子の言い分は分からなくもないし、日向の言うことも分からなくもない。
板挟みどころか蚊帳の外のような状態に、遥は胸に溜まった息を吐き出す。
と同時に、主将も大きく溜め息を吐いた。
「木吉の創部当初のスタイルはさ、コテコテのCだったんだよ。身長が一番でかかったってのもあるが、ウチは未経験者ばっかでアイツしかできなかった」
日向の口から飛び出したのは、復帰したばかりの彼の話だった。
今でこそ誠凛のC、7番を背負っている木吉だが、そもそも彼が得意なのはPGだったのである。
チームのためにCとして自分を磨くのが適役、でも───。
しかし、彼のその葛藤をあっさりと拭い去ったルーキーがいたのだ。
あの光景を今でもすぐに思い出すことが出来る遥は、懐古に浸りながら頬を綻ばせた。
「やっぱり鉄平も悩んでたみたいなんだけど…『じゃ両方やれば?』って言ったんだよ、コガくん」
バスケを知っている者なら、これがいかに不思議な発言か分かるだろう。
当時バスケを始めたばかりで、明るく天真爛漫な小金井だからこそ言えた言葉であり、小金井が言ったからこそ素直に胸に響いた言葉だったはずだ。
「木吉とお前は違うけど、お前にできることは本当にそんだけか?」
黒子は答えなかった。
今彼の脳裏には、マイナスしかないのだろう。
「まあムリヤリやらせるもんでもねーし。…けど、どーしてもダメなら火神ぐらいには言っとけよ。公園行くっつってたから」
火神───その名前に反応を示したのは黒子だけではなかった。
「今日試合後に話したんだけど…あいつなりに色々考えてたみてーだ。あいつはお前のこと信じてたからな」
「……!!」
「つーかどんだけ不器用なんだあいつは」
苦労の絶えない誠凛バスケ部主将は全てを悟っているかのように興味をなくすと、再びゴールに向き合った。
「つか話しかけられたから何本撃ったか忘れたわ…七瀬、カウントいくつ?」
「え?あ───」
「…すいません、ありがとうございました」
突如話題を振られた遥が吃っている間に、影は自身の光を見つけたらしい。
久しぶりに見る彼の生き生きした顔───鼻の奥がツキンと痛んだが、遥はそれに気付かないフリをした。
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