夏休みの練習をより濃厚なものにするために組まれた練習試合は、木吉の一言によりスタメンが全員1年という意外な開幕を迎えた。

誠凛バスケ部にとって必要不可欠なある種ブレーンのような彼の復帰によって、いい意味で部は変わろうとしているのだ。

そんな木吉の前で繰り広げられた練習試合の結果明らかになったのは、光と影の溝とその影に欠けているモノだった。









「順ちゃんまだまだ余裕って感じだね。本数増やす?」

「あ?そりゃ試合出てねーからな。つか七瀬、無理に付き合ってくれなくていーんだぜ」

「見てたいから見てるだけなのに」


1年ばかりの練習試合の後、体力が有り余って仕方がないらしい日向と遥は体育館で自主練をしていた。

勿論マネージャーである遥が練習をするわけではないが、黙々とシュートを撃つ日向の観察は勉強になるのだろう。


「うしっ」


結構な本数を撃ったのだが、余裕があるのか日向の球筋は正確なままだ。


「あの…」

「のぁああぁ!?」

「!!!??」


のんびりとした雰囲気の中、突如上がった主将の悲鳴に遥は肩を跳ねさせ息を詰めた。

大きく見開いた瞳に映るのは、最近影を落としていた後輩である。


「テツヤ…!」

「お疲れ様です」


ぺこりと丁寧に頭を下げた黒子ではあったが、次の瞬間、彼の口から飛び出た言葉に遥は頭の中が真っ白になってしまった。

確かに最近の黒子は低迷していたが、こうも思い詰めていたとは。


「…は!?いや限界って…!?それよりその後…なんでだよ!?」

「ボクではこの先誠凛の足をひっぱるだけです。…だから、木吉先輩をスタメンにしてください」


今日の試合、黒子はいつも通りの活躍ぶりだった。

いつも通り、今まで通りだったのである。

試合の勝敗だけで言えば、黒子からのパスを拒否した火神が1人で点を取り、僅差ではあったが誠凛が勝利した。

黒子がいなくとも点を取る火神。

火神がいない中いつも通りパスを出し続けた黒子。

点数の伸びなかった試合。

それらを総合して見えてくる、『仲間の力』を軸とした『人任せ』である影に足りないモノ。

それは今のスタイルを捨て、新しい『彼のバスケ』を創ることだったのだ。


「ったく…珍しく話しかけてきたと思えば…チョーシこくなダァホ!!」


けして調子に乗ったわけではないのだろうが、日向にど突かれた黒子は軽く吹っ飛んだ。


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