遥と黄瀬は来たとき同様、部員たちに気付かれないように体育館を後にしようとしたのだが、時既に遅し。


「あのっ、モデルの黄瀬涼太君ですよね!?」

「え、あー…そうっスね」


瞳を輝かせて待ち構えていた女子生徒を、簡単に無視出来る程非情ではない黄瀬が肯定してからが早かった。

あっと言う間に女子生徒が列をなし、その列が更に女子生徒を呼んでとんでもないことになってしまったのだ。

いつ何処で用意したのか色紙片手の者も多く、そう簡単に片付きそうにない。


「相変わらず凄い人気だね、涼太」

「あーもー……こんなつもりじゃなかったんだけど…」


体育館の舞台に足を組んで腰を下ろしている黄瀬は、サインを書き、握手をしとファンサービスを忙しくこなしていく。

そんな姿も様になっている彼の少し後ろに座って、遥は暢気に感心していた。

そのとき、集合がかかっていたバスケ部の面々も体育館の異変に気が付いたらしい。


「……アイツは…」

「……!!」

「……お久しぶりです」

「「黄瀬涼太!!」」


サインの途中で片手を上げ、かつての仲間である黒子へ「ひさしぶり」と挨拶を返す黄瀬。


「スイマセン、マジであの…え〜っと…てゆーか5分待ってもらっていいスか?」

「ごめんね皆。ちょっとした事故なの」


黄瀬の後ろから遥が顔を出すと、部員の表情が歪んだまま固まる。

代表してリコが、般若のような顔をして叫んだ。


「遥〜〜〜〜〜〜!!?何してんのアンタ!!事故って何が!?てゆーか今日遅刻するって黄瀬涼太に会うからだったの!!?」

「言ってなかったっけ?」

「聞いてないわよ!!!」


遅刻の理由を話した気でいた遥は素直に謝罪したが、カントクは何かを呟きながら頭を抱えてしまっている。

遥は再度謝罪を述べることしか出来ない。


「よし、っと…」


そうしているうちにファンサービスを終わらせたらしく、黄色い声を上げていた女子生徒の最後の1人が手を振りながら去っていった。

漸く視界が開けた黄瀬が舞台から飛び下りると、優しい笑顔と共に遥に手を差し伸べる。


「どーぞっス」

「ありがとう」


その手を借りて、遥も軽やかに舞台から下りた。


「…なっ、なんでここに!?」

「いや…次の相手誠凛って聞いて、センパイいるの知ってたし、黒子っちが入ったの思い出したんで挨拶に来たんスよ。中学の時一番仲良かったしね!」


同意を求めるように黒子を見る黄瀬だったが、当の黒子はいつも通りの表情で述べる。


「フツーでしたけど」

「ヒドッ!!!」


記憶にあるやり取りだったからか、遥は思わず綻ぶと黄瀬を見上げた。


「次の相手海常だったんだ」

「何か話が合わないと思ったら、知らなかったんスか」


遥は小さく頷く。


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