「え、『それ』で実力って出せるの?」
漸く口を開いた遥に視線が集まる。
ほら、と人差し指で『それ』を指差せば、同じく気付いていたらしい日向が後を引き継いだ。
「七瀬の言う通り、『実力だ』じゃねーよ。ボケすぎだ足元見ろ!練習中からなんか変だと思ったんだよ」
遥の指が示す先、そして皆の視線の先にあるのは───
「お前ソレ上履きじゃねーかダァホ!」
間。
「えええ!?」
「ったく…まさかわざと負けたんじゃねーだろーな」
専用シューズと上履きでは、動きやすさに天と地程の差があるということは言わずもがな。
「…いっけね!」
「素かい!!」
そんなうっかりもやらかしてしまう『強者』が、誠凛の7番を背負う木吉鉄平なのである。
*
「遥はどっちが勝ったと思う?火神と木吉」
「んー…どうだろ」
すっかり日が落ちた道を、同じクラスでちゃっかり同じ委員でもある伊月と遥が並んで歩いていた。
「今日は放課後…いや部活後デートか」という冷やかしを慣れた様子でスルーし帰路についた2人の話題は勿論、先程のアレについて。
エース・木吉の復帰、ルーキーの翳り、そしてその両者による1対1───思い返せば今日1日問題がてんこ盛りだ。
「空中での火神くんはブランクありの鉄平には脅威だろうし、でも鉄平のバスケセンスはトータルで火神くんを上回ってるとも思う」
過ぎ去ったことをどうこう言っても仕方はないが、今日の結果は素直に受け止めていいものではない。
上履きであってもそのハンデを感じさせなかった木吉はさすがであったし、だからと言ってそのハンデがなければどうだったのかと訊かれれば───答えは未知数だ。
伊月も同意見なのか、明確な勝敗について言及はしなかった。
「間違いなくあの2人は同じコートに立ってエースとして活躍する。…活かすも殺すもオレにかかってるんだよな」
「俊はPGだからね。しっかり指揮してもらわないと」
「ああ。さっき終わったばっかだけど練習したい…ハッ、練習で連取する選手…」
「……私も……」
独りごちた遥の隣で思い付いたばかりのネタを専用の手帳へ書き込んでいた伊月は、彼女の変化を察したのか素早く空けた手を差し出した。
視野の広い彼は普段から遥をよく見ているし、何かあればすぐこうして手を差し出してくれるのだ。
「遥」
少し迷った遥がそれに手を重ねると、優しくそして強く握り返される。
あと彼女に必要なものは、一欠片の───。
END
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