「いいすけど…ブランク相当あるんすよね?手加減とかできねぇすよ」
「モチロンだ。本気で頼むぜ」
木吉の一言で始まったエース対決を前に、遥の緊張はピークに達しようとしていた。
ぎこちなく隣にいたカントクの制服の袖を引けば、安心させるかのようにその手を握られる。
繋がれた手からは、しっかりと彼女の動揺と緊張が伝わってきていた。
そんな周りはさて置いての1対1は、厳かな空気の中静かに激しく繰り広げられている。
その中で目を瞠るべきはやはり木吉の技量だろう。
1年近くバスケから離れていたにも関わらず、ブランクを感じさせない動きは火神を確かに圧倒していた。
しかし、押しているのは間違いなく火神である。
「フウ…想像以上にしんどいな」
1対1では当然、点を取るのも守るのも自分自身だ。
しかも火神は、あのキセキを打ち負かしたこともある実力者。
彼を前にした木吉の負担はけして軽いものではないだろう。
───彼はブランク以外のものも抱えているというのに。
不安が過ぎった遥が気付かれないように彼の足元を見ると───何やら違和感が。
「あれ…?」
「抜いた!?」
と、そのときタイミング良く試合が動く。
火神が木吉を抜き、シュートモーションに入ったのだ。
一瞬遅れを取ったようだが、すぐさま木吉も反応し跳び上がる。
「何!?」
だが空中戦に強い火神は、鮮やかなダブルクラッチで先輩を躱すとダンクを叩き込んだ。
「すげえっっ!!あそこで裏からダンク!?火神の…勝ちだ!!」
遥の瞳に映るのは、勝ったにも関わらず浮かない顔をしている後輩と、負けたにも関わらずその先を見据えているらしい友人である。
「ふぃー参った!オレの負けだ。約束通り、スタメンはキミだ」
「…ウス。じゃあオレ先上がります」
そう言うと火神は静かに体育館から出て行った。
彼が席を外したこれからは、今までツッコまずにいた2年による質疑応答の時間だ。
「なっ…何考えてんだよ木吉!!」
「いやー強いなアイツ」
「じゃなくて!!アンタ外れてどーすんのよ!?」
渦中の木吉は囲み取材の如く説明を求められるだけでなく、カントクにどこからか取り出したハリセンで殴られる始末である。
やはり皆の背中をしっかり押すのも彼だが、皆の頭をしっかり混乱させるのも彼の役目のようだ。
「しょうがねぇだろ。ブランクなんて言い訳になんねーし、これが実力だ」
return →
[1/2]