「まあとにかく。山登るなら目指すのは当然頂点だ…が、景色もちゃんと楽しんでこーぜ」
怒涛のボケとツッコミのラッシュに騒然となった体育館だったが、遥はただ1人漸く戻ってきた『いつもの雰囲気』に頬が緩みっぱなしだった。
そんな姿を見てか、木吉の大きな手が彼女の頭を優しく撫でる。
ナチュラルに繰り広げられる光景も含めてだろう、対する主将・日向はもうぐったりだ。
「どうした日向?」
「いや…変わってねーなと思ってよ。だからアイツはヤなんだ」
*
練習のメニューで定番であるミニゲーム。
小金井がまだ来ていないと頭の片隅で思いながら業務に勤しんでいた遥がそれに気付いたとき、既に事件は起きた後だった。
ちょうどその小金井が遅れて体育館へ顔を出した際に、火神が豪快すぎるダンクで仲間たちを蹴散らしたのだ。
直後、鋭いホイッスルとカントクの叱咤が飛ぶ。
「ファウルよ。ちょっと火神君!!何やってんの!!強引過ぎよ、もっとまわり見て!!」
「火神くん…!?」
遥は顔を引き攣らせた。
見間違えでなければ、彼は今、注意を受けて舌打ちしたのだ。
纏う空気は名前の通り熱いようで、あの青峰のような冷たく重いものだった。
鋭利な刃物の如く研ぎ澄まされたそれとはまた違った───自暴自棄で孤独なプレイと態度なのである。
そんな話しかけるのも躊躇われる雰囲気を裂いたのは、復帰したばかりのエースだった。
「…なあ火神君。ちょっといいか?オレも早く試合に出たいんだけどさ、上級生だからって戻ってすぐ出してくれってのも横暴だと思うわけさ」
一体また何を言い出すのかと皆が耳を傾けたそのとき、彼からある意味予想通りの言葉が飛び出してきた。
「だからよ、勝負してくんねぇ?スタメンを賭けて」
「は?」
「木吉!?」
片や2週間で暴君と化しているルーキー。
片や戦線離脱しブランクを抱えるエース。
そして勝者が手にするのはスタメンの座。
つまり、どちらが勝つか読めない1対1であると同時に、どちらが勝っても誠凛にマイナスが生じる勝負なのである。
ああもう、と日向は溜め息混じりに頭を掻いた。
「だからヤなんだよあいつは!いつだって全力で、バスケバカで、ボケてて、そんでいつも何か企んでる」
END
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