例え完膚無きまでに叩きのめされようとも、誠凛バスケ部がなくなるわけではない。

敗北後一発目の練習のために体育館に集まった面々は、カントクの通告に面白いまでに震え上がった。


「3倍逝っとく?」

「3…3倍!?ちょっマジで!?いやあの…試合終わったばっかなのに…」

「え…4?」

「やります!!」


もうこうなれば大して変わらない気もするが、4倍より3倍の方がましだと彼らは急いで首を振る。

心身共にくたくたな状態だろうと予想出来るが、彼らは一見いつも通りのように思えた。


「ホラやるぞ練習!!落ち込んでても何も始まんねーだろ!」

「ウィス!!」


───そう、本当に『一見』いつも通りなのである。

遥もいつも通りマネージャー業務をこなしながら彼らを観察していたが、彼女自身を含め、至る所に違和感が生じていた。

普段の3倍のキツい練習をこなすも、どこかぎこちない部員たち。

普段と同じように物事を考え動くも、どこか満たされない自分。

大切な何かが此処にはなかった。









「遥、ミーティングするわよ」

「あ、うん。分かった」


集合の合図で散り散りに練習していたメンバーが集まった。

皆の顔色をざっと確認すると、カントクはフフンと鼻先で笑ってみせる。


「みんな…入部の時やったこと覚えてる?次はもう負けられないわよ。わかってる?冬は…寒いわよ〜」

「………え……冬…!?」


高校バスケットボール三大大会は夏のI・H、秋の国体、そして冬の選抜。

国体は都道府県対抗のため少し性質が異なり、高校の頂点を決める戦いは実質夏のI・Hと冬の選抜となる。

後者の冬の選抜とは、12月に東京で開催され、その年の最強を決める最大最後のタイトル。

全国高等学校バスケットボール選抜優勝大会、通称───


「ウインターカップ!全てをぶつけるのはそこよ!!」


I・Hではその舞台に立つことすら叶わなかった。

しかし、諦めるにはまだ早い。

冬にも日本一になるチャンスは残っているのだ。


「これで冬も駄目だったら全裸やるぞマジであの女は。つーわけでまだ今年は終わってねぇ。むしろこれからが本番だ」


遥は文字通り息を飲んだ。

たっぷりとは言えないが、ウインターカップまでまだ時間はある。

それに───


「それなんだけど日向君。もうすぐ帰ってくるわ、鉄平が」

「…マジ?」


彼が帰ってくるのだ。

身も心も強靭な誠凛の要、7を背負うエースが。


「ヤバイっ、もう体育館閉める時間だわ。その話はまた今度ね」

「おーし、じゃあ上がんぞ」

「ウィス」


かくして、誠凛バスケ部の第二章は静かに幕を開けたのである。




END

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