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例え完膚無きまでに叩きのめされようとも、誠凛バスケ部がなくなるわけではない。
敗北後一発目の練習のために体育館に集まった面々は、カントクの通告に面白いまでに震え上がった。
「3倍逝っとく?」
「3…3倍!?ちょっマジで!?いやあの…試合終わったばっかなのに…」
「え…4?」
「やります!!」
もうこうなれば大して変わらない気もするが、4倍より3倍の方がましだと彼らは急いで首を振る。
心身共にくたくたな状態だろうと予想出来るが、彼らは一見いつも通りのように思えた。
「ホラやるぞ練習!!落ち込んでても何も始まんねーだろ!」
「ウィス!!」
───そう、本当に『一見』いつも通りなのである。
遥もいつも通りマネージャー業務をこなしながら彼らを観察していたが、彼女自身を含め、至る所に違和感が生じていた。
普段の3倍のキツい練習をこなすも、どこかぎこちない部員たち。
普段と同じように物事を考え動くも、どこか満たされない自分。
大切な何かが此処にはなかった。
*
「遥、ミーティングするわよ」
「あ、うん。分かった」
集合の合図で散り散りに練習していたメンバーが集まった。
皆の顔色をざっと確認すると、カントクはフフンと鼻先で笑ってみせる。
「みんな…入部の時やったこと覚えてる?次はもう負けられないわよ。わかってる?冬は…寒いわよ〜」
「………え……冬…!?」
高校バスケットボール三大大会は夏のI・H、秋の国体、そして冬の選抜。
国体は都道府県対抗のため少し性質が異なり、高校の頂点を決める戦いは実質夏のI・Hと冬の選抜となる。
後者の冬の選抜とは、12月に東京で開催され、その年の最強を決める最大最後のタイトル。
全国高等学校バスケットボール選抜優勝大会、通称───
「ウインターカップ!全てをぶつけるのはそこよ!!」
I・Hではその舞台に立つことすら叶わなかった。
しかし、諦めるにはまだ早い。
冬にも日本一になるチャンスは残っているのだ。
「これで冬も駄目だったら全裸やるぞマジであの女は。つーわけでまだ今年は終わってねぇ。むしろこれからが本番だ」
遥は文字通り息を飲んだ。
たっぷりとは言えないが、ウインターカップまでまだ時間はある。
それに───
「それなんだけど日向君。もうすぐ帰ってくるわ、鉄平が」
「…マジ?」
彼が帰ってくるのだ。
身も心も強靭な誠凛の要、7を背負うエースが。
「ヤバイっ、もう体育館閉める時間だわ。その話はまた今度ね」
「おーし、じゃあ上がんぞ」
「ウィス」
かくして、誠凛バスケ部の第二章は静かに幕を開けたのである。
END
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