「一本───!攻めて!」
火神が抜けてからの誠凛は、もはや足掻くことも許されない状況だった。
残り6分を切っての40点差は、正直先も見えず、心身共にキツいものがある。
「思ったより早かったな。もう決まりだろ。自慢のパスも通じず、体力も尽き、火神もいない。ミスディレクションもとっくに切れた。もはや並の選手以下だ」
青峰の言う通り、かつての彼の相棒である黒子は完全にへばってしまっていた。
コート内にしっかりと現れてしまっている彼は、それでも弱々しくもがき続けている。
「オレの勝ちだ。テツ」
「…まだ終わってません」
黒子の身体能力から考えれば、もう走る気力も残っていないはずだった。
「バスケに一発逆転はねぇよ。もう万に一つも…」
「…可能性がゼロになるとすれば、それは諦めた時です。どんなに無意味と思われても、自分からゼロにするのだけは嫌なんです」
だが彼は、誰よりも力強く言い放った。
「だから諦めるのだけは絶対、嫌だ!」
現時点での絶望的な点差は、実質この後の敗北を意味している。
それは皆察していたし、覚悟していることだった。
しかし『勝利』の可能性を自らの意思でゼロにせぬよう、黒子は精根尽き果てた体に鞭を打ちコートに立ち続けているのだ。
彼は確かに弱いのかもしれない。
が、同時にとても強くもあった。
「声だせ!最後まで」
コートに立つことが出来ない小金井が、暗い雰囲気を蹴散らすように言う。
今ベンチにいるメンバーが出来ることは、ただ力の限り声を出し続けることだけだ。
「中の選手が諦めてねーんだぞ。黙って見ててどーすんだ。ほら七瀬ちゃんも!結構声聞こえてるんだから!」
「そうなの?」
「そ。それに七瀬ちゃんはいつも通り、明るく笑顔で出迎えてくれなきゃ!」
ね?と諭され励まされ、遥は小さく頷いた。
「ディーフェンス」
彼の言う通り明るく笑顔で彼らを迎えられるよう、口を開く。
「ディーフェンス」
頭の片隅に過ぎる2文字に気付かないフリをして。
「…1つだけ認めてやるわ。諦めの悪さだけは」
誰1人諦めず
「順ちゃん!」
全員が最後まで戦った。
「俊!」
それでも点差は開き続けた。
「凛ちゃん!」
涙は出なかった。
「ツッチーくん!」
その日誠凛はそれほど圧倒的に
「テツヤ…!!」
───負けた。
桐皇学園112対誠凛55、試合終了。
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