「第4Q始めます」
桐皇学園82対誠凛51、点差は約30点からのスタートだ。
誠凛ビハインドの中、開始早々黒子のパスが青峰に容易くカットされ、彼はそのままボールをゴールへと放った。
あたかも当然のように、それはネットを潜っていく。
その光景に気を取られていた遥だったが、ふと友人の気配が変わったことに気が付いた。
「…リコ?」
「土田君、至急アップして!遥は救急箱!」
カントクの鋭い声が飛ぶ。
メンバー交代かつ救急箱が必要───まさかと思いコートを見やると、誠凛の新星・火神の動きが微妙におかしいのが目に入った。
何故、どうして、もっと早く気が付かなかったのか。
「誠凛メンバーチェンジです」
「火神!!」
「なんでまた…!?テーピングも問題ねーよ」
自身の不調を分かっているのかいないのか、火神は素直に交代しようとしなかった。
「いいから戻れよ」
「大丈夫っすよ。それにまだ試合は…こんな所で…」
「いいから戻りなさい!!」
全てを断ち切るようなカントクの一喝で、火神は渋々引き下がる。
思わず竦んでしまった遥だったが、応急処置が施せるようすぐさま記憶を辿った。
カントクのあの表情を見れば、問題がけして簡単なものではないことぐらい誰にだって分かる。
「はい、火神くん」
無言でタオルを受け取った火神の足は、両足共に震えていた。
元々痛めていた左足のテーピングは完璧だったが、その足を庇ったために右足に負荷がかかっていたようだ。
カントクの特異な目に映る彼の足の数値が、それらをしっかりと物語っていたらしい。
「気休めだけど、これちょっと振っとくね」
「…………っす」
漸く返ってきた聞こえるか聞こえないか微妙なラインの小さな了承にひとまず胸を撫で下ろした遥は、筋肉疲労によく効くと評判のスプレーを素早く振り掛けると再度ベンチへと腰掛けた。
知識からしても時間からしても道具からしても、今はこれが精一杯。
詳しい状態や処置については、試合終了後に病院に行ってもらう必要がある。
大人しくタオルを被って鎮座する火神からは、滾る怒りが迸っていた。
納得出来ない───いや、したくないのだろう。
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