火神も大分『ふざけた奴』でもあるのだが、青峰はやはりそれ以上。
彼にボールが渡ったが最後、読めないバスケに太刀打ちすることは不可能だった。
「ゴールと全然違う方向へ跳んだ!?」
違う方向へ跳んだがしかし、そのまま繰り出された片手でぶん投げただけに見えるシュートも、あっさりとネットを潜り落ちていく。
DF不可能の点取り屋にとって、ドリブルもシュートも『無限』なのだ。
火神が跳んで防ごうとしても、上体を寝かした体勢で撃つ。
逆にこちらがいくら高く跳んで撃とうとしても、その前にカットされ持って行かれては追い付けない。
容赦のない青峰の猛攻を、誠凛は止めることが出来なかった。
「うおぁああああ」
「火神く…」
食い下がろうと勢い余った火神にぶつかられた青峰はそれすらも物ともせず、後ろ手でボールを放る。
ふわりと弧を描いたそれは、リングの中心へ吸い込まれた。
「バスケットカウント!!ワンスロー!!」
スコアは59対39───点差、20。
「オイオイこんなもんか。そーじゃねーだろ、テメーらのバスケは」
その点差にまざまざと現れているのは、始終感じていた明らかな実力差でもある。
けして返せない点差ではない、が───。
「オレに勝てるのはオレだけだ。テメーだけじゃ抗えねーよ」
そう言った青峰の冷めた双眸に映るのは、かつての相方・黒子だった。
「出てこいよ…テツ!!」
はたしてこの状況で、『影』は『影』でいられるのだろうか。
「黒子君…」
「大丈夫です。もう十分休めました」
立ち上がる黒子の背中はけして大きいものではないのだが、それでもこのときは強く逞しく、そして大きく見えた。
比較的小柄な彼が担うのは、チームの勝利だけではない。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
遥の見送りに返事はなかった。
「決着つけようぜ」
対峙するかつての後輩の視界に、遥が入ることもなかった。
「見せてみろよ。新しい光と影の底力をよ」
頭の中で何かが密かに巣くっていく。
警告と忠告と、両の意味を持つそれは残酷に獰猛に彼女を食らおうとしていた。
「これで変わるのかな…?」
かつての光とかつての影、今の光と今の影。
記憶の中の彼がどんどん消えて、塗り替えられていく。
徐々に広がるそれを抱いたまま、遥は静かにコートを見つめ直した。
END
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