「病院でも異状なしだったし、別に出るなとは言わないわ!とにかくテーピングするわよ!バッシュ脱いで!」
何かを飲み込むように黙ったままの火神は、大人しくカントクの指示に従った。
桐皇エース・青峰がいない中、治っているはずの足の不調で戦線離脱など、さぞ悔しいだろうとは思う。
その心中を察しているからこそ、遥は現実を見ないように顔を背けた。
羨んだって恨んだって、何も変わらないというのに。
「…え…」
不意に、畏怖を通り越した凄まじい脱力感が遥を襲った。
目線の先、会場の隅に見覚えのある姿がある。
先日会ったばかりではあるが、纏う装いは全く見慣れないものだ。
遥が瞬きをする度、その青はゆっくりと怠そうに歩み寄ってくる。
一歩、また一歩。
時折欠伸を漏らし、面倒臭そうに後ろ頭を掻いたりする仕草から覇気は全く感じられないが、取り巻く空気は鋭く、そして重かった。
こんなにも桁違いのオーラを持つメインキャストが現れたというのに、周りは誰も気付いていないのか。
「大───」
遥が名を呼ぼうとすると、伸ばされた大きな手により遮られる。
冷たく凍てついた青の双眸に見下ろされ、遥は息を飲んだ。
その瞳の奥に、優しくて面倒見がよくて素直な彼が少しでも見えれば、どれだけ安心出来ただろうか。
「なんつーカオしてんだよ、遥」
擦れ違いざま、青峰は口端だけで笑いながら遥から手を離した。
「オマエが気にすることじゃねーだろ」
全てを奪い取られたかの如く、遥は膝から崩れ落ちる。
名を呼べぬまま上半身を捻ると、ちょうどかつての後輩が現在の後輩の肩に腕をかけるところだった。
「そーそー張り切ってくれよ。少しでもオレを楽しませられるようにさ」
「………!!テメェ…青峰!!」
両校メンバーは勿論観客も含め、この場にいる者で彼の名を知らない者はいないだろう。
キセキの世代のエース・青峰大輝の名を。
「やっと来たか、まったく…早よ準備して出てくれや!」
「えー?つか勝ってんじゃん。しかも第2Qあと1分ねーし」
火神や他のことに気を取られていたせいで失念していたが、遥が気付かぬ間に第2Q9分経過、かつ点差も10点と開いていた。
勿論、火神を欠いた誠凛が追う側で───
「じゃあ…ま、やろーか」
END
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