「エイ」

「オー」

「エイ」


確定した新入部員も参加し、体育館では激しい練習が行われていた。

部員たちの声だけでなく、スキール音やドリブル音といった音が、熱のこもった体育館に響いている。

そんな音が飛び交う環境を心地いいと思いつつ、遥は動き回る彼らの傍らで、1人ひっそりとマネージャー業に勤しんでいた。

部員が増えれば様々な不足が出てくるのだが、彼女の表情は明るい。


「おい、カントクどした?練習試合申し込みに行くとか言ってたけど」

「さっき戻ったスよ。なんかスキップしてたし、オッケーだったみたいスね」

「……!!スキップして!?」


主将と後輩のやり取りが耳に入り、空のドリンクボトルをカゴに詰めていた遥の手が止まる。


「リコがスキップ…!?」


慌てて顔を上げると、練習のためだけとは思えない程に汗を滲ませている日向が視界に入った。

大量の汗に加え、少し顔色も悪いように見える日向が、遥に目だけで何かを訴えている。

頬に冷や汗が伝うのを感じながら、真剣な面持ちで頷く遥。

カントクのスキップとは、つまりそういうことなのだ。


「オイ、全員覚悟しとけ。アイツがスキップしてるってことは…次の試合相手、相当ヤベーぞ」


主将の宣告に部員の顔が引きつったとき、鼻歌と共に渦中の人物が現れた。


「あ、カントク…」

「ただいまー!!ゴメン、すぐ着がえてくるね」


リコは開け放たれた扉から顔を覗かすと、それはそれは可愛らしい仕草で爆弾を落とす。


「…あとね、『キセキの世代』いるトコと試合…組んじゃったっ……」


恥じらいながら発せられたのは、有名すぎる例の名称。

語尾にハートマークを付ける勢いで落とされた巨大な爆弾から、全員逃げることは出来なかった。


「『キセキの世代』と練習試合…!?」


遥にとっては、有名な天才プレイヤーとの試合であると同時に、可愛い後輩と再会の機会でもある。

嬉しさもあれば些かの不安もあり、それが混ざり合うことなく渦となって胸中を支配し始めた。

中心にのし掛かる重さは前者のものか後者のものか、はたまた全くベツモノか。


「え、誰と?何処と?てか、もう『キセキの世代』とやっちゃうの?行動力ありすぎだよカントク…!」


遥の言葉に反応する気力のある部員は、今この場にいなかった。




END


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