「謝りキノコ…ああ、桜井くんか」
「……遥」
カントクからやや呆れ気味なツッコミが入った頃、桐皇陣はもうリスタートを切っていた。
「うお、またロングパス!?」
「速ぇ、つか先頭の6番Cだろぉ!?」
宙を進むボールは、コートを駆け抜ける若松へと向かっている。
その後を他のメンバーたちが追うも、このままでは試合再開早々ゴールチャンスとなってしまう。
「個人技重視と連係重視、どっちが上か決めよか」
「あと…全員一丸とは言ったけど、よく忘れられる奴がいるんすよ」
意味深長に返した伊月と今吉の前───つまりボールの先、若松のすぐ後ろには、いつの間に走り出していたのか黒子の姿が。
大分高度の落ちてきたボール目掛け、彼は勢いよく地を蹴った。
が。
「でも低──い!!!」
「テツヤもう一段ジャンプ!」
非常に残念ではあるのだが、とてもではないが届く高さではない。
「ったく、慣れねーことすっからだアホ!」
しかしこれまたいつの間に追い付いていたのか、そんな彼を追い越し倍程跳んだ火神がボールを手にしたため、再び誠凛にチャンスが巡ってくる。
凄まじい跳躍力が活躍するのは、何もOFだけではない。
一点でも防がなければ負けであるし、一点でも多くとらなければ負け───使えるものはフル活用すべきだろう。
「んだ、あのショボいジャンプ。とれねーなら跳ぶな!」
「とれました」
「うそつけ!!」
黒子はそれは類い希なる才能の持ち主ではあるのだが、その他の一般的な能力はけして自慢出来るレベルではないのだ。
本人は認めていないが、正直火神がいなければあのまま若松が得点を追加していただろう。
「そもそもらしくねーぞ。もしかしてオマエのいた帝光とオーバーラップしてんじゃねーだろな?今の相手は桐皇学園だぞ。寝てんのか!」
ピクリ、とその単語に反応したのは黒子だけではなかった。
けして寝ているわけではないが、彼の指摘は強ち間違いではないのだ。
『彼』がいないのに『彼』がチラつく試合。
『彼』はいるのに『彼』はいない。
重なるのは、今でも鮮明に瞼の裏に焼き付いている、あの日あの時の体育館で───
「でもとれました」
「うそつけ!!!」
考えれば考える程、思えば思う程に底なし沼へと沈んでいく。
仲睦まじい後輩たちの姿を見ても、精一杯勇ましく挑む仲間たちの姿を見ても。
無音のアラートは見えないところで、爛々と遥の体を縛っていった。
「多分全部分かってるんだよね…さつき」
END
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