「おお出てきた!!誠凛と桐皇学園!!」


一行が体育館へ足を踏み入れると、ぎっしり詰まった観客席からは期待のどよめきが広がる。

それを慣れた様子で聞き流した遥は相手チームへ素早く目を走らせるも、目当ての青は見当たらなかった。

彼に限って、この試合を放棄するとは考えられないが───


「すまんのー。アイツおらんとウチも困るんやけど…後半あたりには来るて。せやからウチらはまあ…前座や。お手柔らかにたのむわ」


関西訛りでそう言ったのは、桐皇学園を率いる主将・今吉である。

遥からすれば中学時代から知る選手である彼曰く、メインの青峰はスターティングメンバーではないらしい。

かなり距離は離れているはずなのに、開いているのかいないのか判断に迷うような穏やかな目元に射抜かれたような気がして、遥は思わず身震いした。

この主将はただ『上手い』だけではないのだ。


「それではこれより、誠凛高校対桐皇学園高校の試合を始めます」


整列するメンバーを見送った遥は、いつものようにベンチの定位置へ腰を下ろした。

握り締めた両の拳は汗ばみ、僅かに震えている。

部員たちの覇気は十分、あの青峰がいないなら、最初から全開でペースをモノにしてしまえばいいのだが───。


「始まった!!!」


試合開始初っ端、ジャンプボールを制したのは桐皇だ。

4番・今吉は目を瞠る速さで切り抜けたかと思うと、ボールを躊躇いなく背後へ放った。


「とりあえずまずは、ウチの特攻隊長に切り開いてもらおか」

「スイマセン!!」


9番・桜井がボールを手にした瞬間、謝罪と共に描かれた放物線がバスケットを潜る。

瞬く間の展開は、とにかく『速い』。

素人が見ても分かる程、付け入る隙のない上手さだ。


「タチ悪いぜマジ。前座なんてウソつくなんて」

「は?ウソなんかついてへんよ。青峰が来たら分かるわ。オレらなんてかわいーもんやでホンマ」


今吉と桜井を見るだけでもレベルの高さが窺えるが、嘲笑気味の今吉の言うことは謙遜ではないのだろう。


「言うたやろ。前座やて」


彼らが前座ならば、主役は───?

コートに佇むメンバーを改めて眺め、遥は足りない色に思いを馳せた。




END

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