「小金井センパイと七瀬センパイは?」
「オレは寝そうになった火神をはたく役!」
「私は火神くんを眺める役?」
ハリセン片手に楽しげな小金井に、自分の役割を今一つ理解しておらず訊ね返す遥。
すかさず、火神からごもっともなツッコミが入る。
「疑問かよ!つかやりにくいわ!」
「小金井君は得意科目も苦手科目もないわ!遥の得意科目は副教科だから、今回出番はナシ!」
大きな予定表を壁に張り出し、カントクは声を張り上げた。
「寝る間も惜しんでいくわよっ!!」
「惜しむっつーかどこにもねぇ!!?」
『バカガミ学力UP作戦』と記された2日分の円グラフには、二度見三度見してしまう程『勉強』の文字しかない。
睡眠どころか休憩すらないのである。
徹夜コースと言うより、もはや不眠コースだ。
「ちょっ…徹夜とか能率が悪いっ…てゆか…」
「いっちょまえに能率とかぬかすな───!!人間2日ぐらい寝なくても死なないわよ!」
顔を引き攣らせる火神は不憫ではあるが、これで下位100位に入られ試合に出場出来ないなんてことになられては困る。
非常に困る。
という思いを胸に、遥は憐れみの眼差しを後輩に向けた。
「まずは数学から!!」
「帰りてぇー!!」
*
「火神!テストどーだった?」
そしていよいよテスト翌日。
火神の結果を聞きに、誠凛バスケ部2年生たちは我先に1─Bへと駆け込んだ。
「……それが…」
ひらりと見せられたのは、生徒たちに配布される前期学年別実力テスト結果のプリント。
そこには308人中90位と記されている。
「なんでぇぇ!?」
「ちょっ、あ!?国語98点!?えええ!?」
あれだけやっても成績が伸びなかった国語が、98点。
どうやっても成績が伸びなかったため、『いっそ捨てて他の4教科で下位脱出を目指す』という結論にまで至ったあの国語が、ほとんどパーフェクトの98点。
衝撃のあまり、驚きの声しか出ない結果である。
「一体どうやって…!?」
「いや…鉛筆転がしてただけ…なんで」
「はあ!?」
鉛筆を転がすというのは、典型的な『苦しいときの神頼み』のアレのことだろうか。
火神がペンケースから取り出したその一見何の変哲もない鉛筆に見覚えのあった遥は、瞬時にその全てを理解した。
「……もしかして、それ……」
「緑間君特製コロコロ鉛筆です」
「なんだそれぇぇ!?緑間こぇぇ!!」
こうして緑間のおかげもあり、全員無事補習はまぬがれた。
…が。
密かに涙を流す誠凛主将と腑に落ちない様子の帰国子女ルーキーは、精神的にはあまり無事ではないようである。
そんな彼らの傍らで、天を味方につけるような男に何故勝てたのかと、マネージャーはゆるりと首を傾げていた。
END
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