「遥センパーイ!もんじゃ不味くなりそーなんで、こっち来てほしいっス!」


テーブル席で片手を上げながら黄瀬が叫ぶ。

遥はぎくりと身を強張らせた後、困惑を露に眉を下げた。

黄瀬たちがいるテーブル席の構成は椅子4脚。

ソファー席ならまだしも、店内の広さから考えて椅子を増やすのは難しいのである。


「でもそっちテーブル席だし…」

「大丈夫、オレの膝の上空いてるっスから!」

「「黙れ黄瀬」」


よく重なったものだと感心してしまう程、様々な箇所から同じツッコミが飛び交った。

結局、蚊帳の外とまで言わないが、遥は大人しく同級生たちに囲まれることとなったのである。

───しかし、こちらはこちらで問題だった。


「ちょ、コガくん…!」


丸く形作られたお好み焼きが宙を舞う。

テーブル席は期待のルーキーたちの修羅場状態、座敷は勝利を手にした面々の遊び場状態だ。


「食べ物を粗末にしちゃいけません………って」


と、何を誤ったのか、お好み焼きが向こう側───テーブル席の方へと飛んでいく。


「あ」


嫌な音と共に、それは緑の上に着地した。


「高尾、ちょっと来い」

「わりーわりー…ってちょっスイマッ…なんでお好み焼ふりかぶってん…だギャ──!!」


近年稀に見る地獄絵図に言葉も出ない遥であったが、どこか安堵した様子で息を吐く。

酷い光景であるのは間違いないし、少々語弊があるかもしれないが、緑間は緑間で新たな仲間と共に毎日楽しんでいるのではないだろうか。

つまり、捕らわれているのは───。









「お、雨やんだんじゃね?」

「ホントだ」

「じゃーいい時間だし、そろそろ帰ろうかー」


豪雨も上がり、あっという間にいい時間となった。

帰り支度を始める面々の一角で、一足先に帰路につこうとした緑間の背に黒子が声をかける。


「…緑間君!また…やりましょう」

「……当たり前だ。次は勝つ!」

「あ、真太郎」


遥が小走りで駆け寄ると、店を出ようとしていた緑間は物言わぬままに振り返った。


「…えっと…」


此処まで来ておいてだが、緑色の綺麗な双眸に見下ろされた遥はたじろいでしまう。

次の句はないと悟ったのか、緑間はそっと彼女の頬へと手を伸ばした。

きっちり丁寧にテーピングの施されたその指先は、もう先程のように冷たくはない。


「……また、お会いしましょう」

「……うん」


短く再会を約束するだけで、緑間との会話は終わってしまった。

だがこれでいいのかもしれない、と遥はリアカーを運んできた高尾に手を振りながら微笑んだ。

感傷に浸ってばかりはいられない。

遥たちには次のステージが待っているのである。


「じゃあ行くか!次は決勝リーグだ!!」

「おおう!!!」


何はともあれ、誠凛高校I・H東京都予選トーナメントAブロック優勝──決勝リーグ進出!!




END

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