「フッフッフ…待っていたぞ!」
「待っていたぞ!」
悪役のような台詞と共に、腕を組み仁王立ちで来客者を出迎えたリコの少し後ろから、遥は楽しげな表情を覗かして繰り返す。
「…アホなのか?」
「決闘?」
火神を筆頭とした1年生は手にした本入部届を風に靡かせつつ、上級生2人の出迎えに唖然としているようだ。
「つーか忘れてたけど…月曜ってあと5分で朝礼じゃねーか!」
火神の言う通り、こうしている間にも校庭の列は伸びているだろう。
そんな慌ただしい月曜朝のこの時間に、最上階である屋上に呼び出されたせいか火神は苛立っているようだ。
「とっとと受け取れよ」
「その前に1つ言っとくことがあるわ。去年主将にカントク頼まれた時約束したの」
リコの言葉に静かに目を伏せると、遥は耳を傾けた。
「全国目指してガチでバスケをやること!もし覚悟がなければ同好会もあるからそっちへどうぞ!!」
「…は?そんなん…」
何か言いかけた火神だが、すぐさまリコに畳みかけられる。
「アンタらが強いのは知ってるわ。けどそれより大切なことを確認したいの。どんだけ練習を真面目にやっても、『いつか』だの『できれば』だのじゃ、いつまでも弱小だからね」
遥はリコの背後から歩みを進め、柵の傍へと移動した。
その間も話は続く。
「具体的かつ高い目標と、それを必ず達成しようとする意志が欲しいの」
この瞬間を待っていましたと言わんばかりに、リコと左右対称になるよう、遥は左手を柵の外へと突き出した。
指差す先は空ではあるが、真下には朝礼を待つ生徒の長蛇の列が待ち構えている。
「んで今!ここから!!学年とクラス!名前!今年の目標を宣言してもらいます!ちなみに私たち含め、今いる2年も去年やっちゃったっ」
「勇気いるけど、結構気持ちいいし引き締まるよー」
明るく言い放つ遥とは対照的に声音を抑えると、リコは付け足す。
「さらにできなかった時は、ここから今度は全裸で、好きなコに告ってもらいます!」
「それはそれでいいと思うけどね、印象的で」
「「え゛え〜〜〜〜!!?」」
「…は?」
上級生の無茶振りに、見事に揃って叫ぶ1年生の中、火神と黒子は目を丸くしていた。
「さっきも言ったけど、具体的で相当の高さのハードルでね!『一回戦突破』とか『がんばる』とかはやり直し!」
「やり直しの方がキツいから、皆の目標1回だけ聞かせてね」
1年生たちは全身で動揺を見せている。
しかし入部するためには、全校生徒の前で、この屋上から、今すぐに具体的で相当の高さの目標を宣言しなければならない。
遥は火神と黒子に目を向けた。
彼らはおそらくこの場で宣言してみせるのだろうが、一体どんな目標を掲げてくるのか、遥は楽しみで仕方がない様子だ。
「ヨユーじゃねーか。テストにもなんねー」
火神は、馬鹿にしてるのか、とでも言いたげな表情をしている。
が、しかし、つい先程まで火神の近くにいたはずの黒子の姿は見当たらない。
「あれ?」
リコと遥の間の柵の上に、火神が飛び乗った。
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