1秒も油断出来ない現状で、流れは完全に誠凛である。


「おおお来たぁ!!残り2分、誠凛ついに1ゴール差まで…」

「秀徳高校タイムアウトです!!」


残り2分あれば逆転は大いに可能、逆に言うならばこのまま突き放される可能性も大いにあると言えるが───この後相手がどう出るかなんて、ここまでくれば互いに分かりきっていた。


「…………」


ベンチへ腰掛け、束の間の休息をとっている仲間たちの背中を見つめる遥は口を噤んだままである。

最終局面でのカントクの指示、彼らの体力の回復、集中力の持続───それらに自分の言葉は必要ない。


「……遥先輩」


感傷的な思考に引きずりこまれそうになったところで、下から声がかかる。

やや疲れは見えるが、いつもの無表情のままの黒子はドリンクを嚥下すると言った。


「バニラシェイクが飲みたくなってきました」

「…これが終わったら、皆でご飯食べに行くのもいいかもしれないね」


王者との連戦をこなした部員たちはきっと腹ペコだろう。

もっとがっつり食事が出来る場所はこの辺りにあっただろうか、と遥の脳内が試合後へ切り替わったとき、タイムアウト終了のブザーが鳴り響いた。

試合再開早々、ボールは秀徳のエース・緑間へ。


「やばい緑間だ!!火神はもう限界なのに!」

「そうくると思ったわ!黒子君が機能した時の凄さは、チームの攻撃力アップの他にもう1つある…」


焦りに声を荒げる誠凛1年に対し、カントクは余裕の表情で口端を上げた。


「スティールも増えるのよ」

「火神くんのハッタリがばれれば、向こうは真太郎を使うに決まってるもんね」


───つまり、パスの場所を教えているようなものなのだ。

黒子のスティールにより、すぐさま誠凛カウンター。

しかし、日向のシュートは心身共に厚い壁である秀徳主将に叩き落とされた。

リードしている秀徳は焦れば負け。

攻撃を緑間に任せ、他はゴールを守りきれば勝利を手に出来る。

対する誠凛はそうはいかない。

守りは勿論、攻撃を成功させなければ、どう足掻いても『勝利』はないのだ。


「…これはキツいかも」


1点たりとも許されないこの状況、隙をついて緑間の3Pシュートが決まる。

ここにきての3点追加は痛い。


「5点差!!一気に苦しくなったぞ誠凛!!」

「伊月くれっ!!」


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