「カントク!いきなり2回のうち1回使っちゃっていいんすか!?」

「ハッタリだからね!こっからはフツーにマークしてるだけでやっとだからね。緑間君に撃たれたら止められない」


1年生たちの疑問も尤もだが、遥はカントクの言葉に賛同を示し小さく頷いてみせた。

今までの試合展開から考えて、緑間のシュートは、火神のあのジャンプでしか止められない。

が、そもそも緑間はその性格上、無理なシュートは打たないタイプなのである。

予想を超える火神のジャンプがまだあると思わせれば、彼のことだ、少なくともシュート回数は減らしてくるだろう。

これがカントクの狙い───今のジャンプは緑間のシュートの抑止力だったのだ。


「もう今できることは秀徳の得点力を少しでも落としてそれ以上に点をとるしかない!だから…後は託したわよ」


これでステージは整った。

後は黒子が『鷹の目』から消えるだけだ。

言わんとすることは理解出来ているが、遥はお決まりの定位置でゆるりと首を傾げる。


「私には全然分からないけど、俊や高尾くんにはどう見えてるんだろうね」

「さあ…やっぱ鳥みたいな感じなんじゃない?」


『鷹の目』は、その名の通りコート全体が見える程視野が広いらしい。

そのため、意識を他に逸らしても黒子を視界にとらえ続けてしまう。

だから黒子は、わざと自分を視界に『入れさせ続けた』というのだ。

意識を自分から逸らす前に逆のミスディレクションをすることにより、鷹の目をコントロールしていたのである。

つまり、今の狭まった視野なら、今度は逸らすことが可能となるのだ。


「いない!?どこに…!?」


ちょうどそのとき、黒子の思惑通り高尾の様子が変わった。

どうやら『鷹の目』から『影』が消えたようだ。

そのタイミングで『光』が動く。

少し遅れてではあるが、高尾は火神と黒子のライン上へと駆け出した。

黒子を見失っても、パスを捕る側である火神との間に入ればカット出来る───その判断は正しい。

が。


「今度は取られません。今までは来たパスの向きを変えるだけでしたが、このパスは加速する…!」


高尾の目の前で、黒子がボールをぶん殴った。

凄まじい勢いで押し出されたボールは、火神の方へと突き抜けていく。


「緑間!!?」

「絶対に行かせん!!」


そのスピードもパワーも異なるパスを捕った火神の前に立ち塞がるのは、OFにもDFにも定評のある『キセキの世代』の1人緑間真太郎。

彼が名実共に優れたプレーヤーであることは、火神は勿論この場にいる誰もが知っている。


「うぉおおあ」


緑間自身だけでなく、その概念すらも吹き飛ばさん勢いの豪快なダンクを火神は繰り出してみせた。


「スゲェエエ、なんだ今の!?」


会場も沸き立つ力強いゴールで誠凛に追加点、同時に火神の体力も限界へ。


「ナイス、火神くん」


───この火神のゴールのおかげで、流れは完全に誠凛のものとなった。

限界値である2回を跳びきった火神の勢いこそ落ちたものの、日向の3Pも水戸部のシュートも十分な矛なのである。


「後2ゴール…!」


ついにスコアは74対78。

誠凛4点ビハインド。

その結果にやや不満げな様子で緑間は呟いた。


「まさかここまで追いすがるとはな…」

「緑間君は昔、ダンクを2点しか取れないシュートと言ってました。キミの3点は…確かにすごいです」


残り時間、3分。


「けどボクは、チームに勢いをつけたさっきのダンクも、点数以上に価値のあるシュートだと思います」


張り裂けそうな程高鳴る胸を押さえ、遥は大きく息を吐いた。

彼女の知る限り、黒子も緑間も帝光出身者の中で粘り強さが桁違いなプレーヤーだ。

最後の最後で何かを仕出かす可能性は大いにある。

残り180秒、油断した方が『負け』。




END

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