ある日の昼休み、2―Aにて。
遥と伊月は2人で昼食をとっていた。
伊月の机を共有しながらのランチタイムの話題は、やはり部活のことである。
新発売と書かれた小さめのパックのジュース片手に、今後のカントクの考えを述べているのは遥だ。
「それでね、リコが人数決まったら練習試合申し込みに行くって言ってて」
「いいと思うよ。オレは」
パンを咀嚼しながら話を聞いていた伊月が、何かに気付いたらしく小さく声を上げる。
「遥、後ろ───」
そのとき、遥はちょうどストローを口に入れたところだった。
「すいません、先輩」
「!?」
背後から聞こえた声に勢いよく振り返る。
その勢いでパック内のジュースが激しく波打った。
振り返った先にいたのは、落ち着いた様子の黒子テツヤ。
遥はストローから口を離すと、神出鬼没な姿に大きく息を吐く。
「テツヤ!どうしたの?」
「何か用事?」
遥と伊月に軽く頭を下げてから、黒子は教室を見渡す。
「本入部届けをもらいに来たんです」
「入ってくれるんだね!分かってたけど」
遥は黒子の手を掴むと、無理矢理握手の形をとった。
黒子は慣れたものなのか、表情を変えずにされるがままだ。
「カントクなら此処じゃなくてCだよ」
「ありがとうございます。Aはお二人だけなんですか?」
「そうだよ」
一頻り満足するまで黒子の手で遊んでから解放すると、遥は答える。
「そうなんですか。…お邪魔しました」
「待ってテツヤ」
頭を下げて一歩踏み出そうとしていた黒子の制服の袖を、咄嗟に掴んで引き止める遥。
制服越しに感じた力に歩みを止めると、黒子は静かに遥からの言葉を待った。
「今度またマジバ行こうね」
「…はい。是非」
僅かに微笑んでから今度こそ去っていった姿を見送り、遥は伊月に向き直る。
「ねぇ俊、今年もやると思う?」
去年経験している伊月には、これだけで意味が通じたらしい。
「ああ、アレ?やるんじゃない?」
「だよね。絶対遅刻しないようにしよっと」
特に、期待のルーキーである火神と黒子のアレは、一字一句聞き逃すわけにはいかない。
1年コンビに思いを馳せつつ、遥は一口大に千切ったパンを噛み締めた。
*翌月曜日の8時40分。
青空が覗く下、生徒が朝礼のために列をなしていた。
しかしそこに、今日の日を心待ちにしていた遥の姿はない。
「俊はあそこでー…」
頭上高くからその列を眺めながら、遥は隣にいるリコへ話し掛ける。
「Cが……あ、順ちゃんいたよ」
「もうすぐ時間よ、遥」
「うん」
遥が返事をすると、ちょうど屋上の扉が開く音が響いた。
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