「火神熱くなりすぎだ。もっと周り見ろよ」

「そうだ。それにさっきのは行くとこじゃねーだろ!一度戻して…」

「戻してパス回してどうすんだよ」

「あ?」


同じコートに立っていたメンバーが口々に声をかけるも、後輩から返ってきたのは冷たい意見だった。

びくりと肩を震わせたのは遥だけだったようだが、皆が驚きに目を瞠っているようだ。


「現状秀徳と渡り合えるのはオレだけだろ。今必要なのはチームプレーじゃねー。オレが点を取ることだ」

「オイなんだそれ」

「それと自己中は違うだろ」


自意識過剰・自己中と言われても仕方のない火神の発言に、黙っていられる先輩たちではない。

普段比較的穏やかである遥も思わず声を荒げそうになったが、


「…テツヤ?」


彼女より更に物静かな後輩が動いたために、一瞬隙が出来る。

その遥の目の前で、黒子の拳が火神の頬へ。


「黒子君!?」

「黒子テメェ!!」


容赦なく手を上げた黒子の胸倉を掴み上げ、吼える火神。

ルーキー同士が睨み合う。


「バスケは1人でやるものじゃないでしょう」

「みんなで仲良くがんばりゃ負けてもいいのかよ!?勝たなきゃ何のイミもねぇよ」

「1人で勝ってもイミなんかないだろ」


静かに、鋭く、重く響く言葉。


「『キセキの世代』を倒すって言ってたのに、彼らと同じ考えでどうすんだ」


すとん、と胸中に入り込むのは、ソレを近くで見てきた黒子が言うからだろう。


「今のお互いを信頼できない状態で仮に秀徳を倒せたとしても、きっと誰も嬉しくないです」


火神が腕を振りかぶった。

今度は黒子が吹っ飛ぶ。


「甘っちょろいこと言ってんなよ!そんなん勝てなきゃただのキレイ事だろーが!!」

「…じゃあ『勝利』ってなんですか」


大きく鼓動が脈打ったと同時に、遥の視界が揺れた。

疑問と葛藤が柔らかく折り重なっていく。


「試合終了した時どんなに相手より多く点を取っていても、嬉しくなければそれは『勝利』じゃない…!」


彼の思いが冷ましたのは、血が上ってしまっていた仲間の頭だけではなかった。


「別に負けたいわけじゃないって!ただ1人できばることはねーってだけだよ」

「つかなんか異論…あるか?」

「そんなん…ねぇ…いや…悪かった。勝った時嬉しい方がいいに決まってるわ」


更に2年に諭された火神は、もうすっかりいつもの彼の姿に戻っている。


「さ…て、黒子のおかげで火神の頭が冷えたのはいいとして、ピンチは変わってねーけど…どうする?」


とりあえずこれで一段落ではあるが、第3Q終了時点でスコアは47対61。

点差だけを見れば、正直巻き返しは可能範囲。

だがそんな簡単な話ではないことを、この場にいる全員が理解している。


「すいません1つ…今なら使えるかもしれません。ボクにできるのはボールをまわすだけです…けど」


ふと口を開いたのは、頬に痛々しい痕が残る黒子だった。


「もう一段階上があります」




END

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