カントクの的確な指示により、誠凛が動く。
秀徳の点取り屋は、言わずと知れたキセキの1人・緑間と主将・大坪だ。
前者は勿論、後者も1対1では到底太刀打ち出来そうにないプレーヤーである。
「大坪に…ダブルチーム!?」
小金井と水戸部で東京屈指の大型センターである彼を固めはしたが、これで止められるかどうか───。
「こりゃ〜…こっちかな〜〜」
大坪への道筋を絶った高尾が選んだのは、名実共に『キセキ』の緑間。
だが、すぐさまその高尾の悲痛にも聞こえる叫び声が響いた。
「緑間ァ!!!」
緑間の手から離れる前に叩き落とされたボールが、行き場を失い小さく跳ねる。
これから高すぎる放物線を描き、会場内にどよめきを生むはずだった緑間の精密なシュートが、同じ程の高さのブロックのせいで不発に終わった───。
とうとう、あの緑間をあの火神が止めたのだ。
ただただ驚きに目を見開いていた遥だったが、すぐさまバスケにおいて絶対に目を離してはいけないものの行方を追う。
まだソレは死んでいない。
「やっぱどんな凶悪な技にも欠点はあるか。もう1つあったな」
ハーフコートは人口0。
零れたボールを追う伊月とゴールまでの間に、邪魔者はいなかった。
まだ40秒程しか経っていないというのに、誠凛は大きな機会を見出したようだ。
「………火神くんは、真太郎も………」
誠凛ルーキー、アメリカ仕込みの彼の脚なら、大きく強靱な盾であり矛でもある緑間を止めることが出来る───チームの勝利への『光』に嬉々するべきだというのに、遥の顔色は暗いままである。
コート外のそんな小さな曇りに気付くはずもなく、コート内ではそのせっかくの活路を打ち砕くように、大坪がダブルチームをものともせずゴールへ向かっていた。
が、更にその上から火神がボールを叩く。
「うわぁあなんなんだアイツは!?」
「ファウル黒10番!!」
無双とはこのことを言うのか───火神1人で秀徳の要2人に追い縋り始めた。
彼の体が、心が、王者を上回ろうとしているのだ。
「まじですげえよ火神!!あいつがいれば…」
「……そうですか?」
「え?」
「このままだと…マズい気がします」
仲間の執念に喜ぶ者と訝しむ者、
「…………」
そして相反する者。
どちらに転んでも、待ち受けるモノは───。
END
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