「ハッ、正直まあそーだよ!けどカンケーねぇな」


火神の体が高く飛び上がる。


「そのまま入りゃそれでいーし…外れたら…自分でブチこむからな!!」


宣言通り、アメリカ仕込みの誠凛ルーキーは、弾かれたボールを鷲掴んで強引にダンクを叩き込んだ。

その衝撃で大きく揺れるネットをまじまじと見つめ、遥は1人感動と感心の様子で頷く。


「これが火神くんが言ってた新技か…なるほどね」


彼だから可能であった豪快な1人アリウープで2点返すも、相手は王者秀徳、すぐさま点差を広げにかかってきた。

王者相手に誠凛はどこまで食い下がれるのか───。









第1Q残り14秒、スコアは11対18で誠凛7点ビハインド。

と、そのとき傍らの誠凛ベンチで動きがあった。


「カントク、なんスかソレ?」

「ああ、この前折ったやつ…忘れてたわ」

「折った!?」


カントクのポケットから零れ落ちたらしい見るも無惨なフィギュアの半身を見、遥は思わず「ああ…」と声を漏らす。

それは誠凛主将・日向の涙ぐましい決意の結果なのだ。


「それ順ちゃんが大切にしてる戦国武将フィギュア(甲冑シリーズ)だよ。全体練習中、シュート外した数だけリコが折ることになってるの」

「そ。去年負けてからね…」


『監督』と『主将』、部の要となる2人は、昨年の大敗後にこんなやり取りをしていたそうだ。

自分に強力なリーダーシップがないため、せめてプレーでみんなを引っ張れるようになりたいと切望した日向は、プレッシャーのかかる大事な場面でもシュートを決めるにはどうすればいいのかと、カントクに相談を持ちかけた。

それを聞いたカントクは、「普段からプレッシャーをかけて慣れておけばいい」と返したのである。

例えば、全体練習中にシュートを外した数だけ、大事にしているフィギュアをへし折るとか───と。

その意見を真正面から受け止め、悩みに悩み抜いた日向は、それを実行し始めたのだ。


「マジですか!?」


見るからに引いてしまっている様子の1年生たちに、遥は自分が聞いたときもこんな風に驚いたものだと懐かしげに苦笑してみせた。


「マジだよ。凄いよね、ウチの主将。私なら絶対無理だもん」

「けどだから日向君は大事なシュートは絶対決めるわ!!」


カントクのセリフ通り、ラスト3秒で日向の見事な3Pが決まる。

と同時に、お決まりなものも飛び出した。


「王者がなんぼのもんじゃい!死ね!」

「おい日向本音出てる!」

「そしてちょっとだけ性格がゆがんだわ」


1年生たちが更に引いてしまったのを横目に、遥も再度苦笑い。

それからコートに視線を戻したとき、彼女の表情が固まった。

大きく見開いた瞳いっぱいに映り込むのは、今はもう敵となってしまった後輩の姿。


「いいシュートなのだよ…人事を尽くしているのがよくわかった。だが…すまないな」

「え…?」


そう詫びた後、緑間がシュートモーションに入ったのは───自陣ゴール下。

そのまま彼の手から離れたボールは、


「まさか真太郎、そんな…」


高いループを描き、


「嘘…でしょ…?」


危なげなくネットを潜り落ちた。


「そんな手前ではないと言ったのだよ。オレのシュート範囲はコート全てだ」




END

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