「今のまま行く…?」


『鷹の目』を持つ秀徳PG・高尾のせいで、黒子のパスが通らない───誠凛に不利な状況故のタイムアウトだったのだが、当人はベンチへ引っ込むつもりはないらしい。

その意思を聞いた遥の脳裏に不安と疑問が過ぎるが、それは彼女だけの話ではなかった。


「テツヤ本気…?」

「火神君はともかく…高尾君にはミスディレクションは効かないのよ?大丈夫?」

「大丈夫じゃないです。困りました」

「うん…そう。てかオイ!」


あっさり返ってきたのは素直に頷けない返事である。

すかさずツッコんだカントクの隣で難しげに表情を曇らせていた遥だったが、黒子の瞳が光を失っていないことに気付き口を閉じた。

彼には、今現在は形になっていない『何か』があるようだ。


「けど…できれば第1Q残り3分半、このまま出してもらえないですか」

「T・O終了です」


解決策を見出だせぬまま、終了のブザーが響く。

試合再開、これはもう後輩たちに託すしかないようだ。


「わかった…任せるわよ!2人共」

「いってらっしゃい」


黒子、火神、緑間、高尾───今試合のキーパーソン4人がコートに出揃う。

逸る気持ちを抑え、遥は定位置へ腰を下ろした。

コートに立つ誠凛2年3人、日向、伊月、水戸部の疲労は明らか。

それを振り切り、全部出し切ってこの試合を乗り切ってくれると信じてはいるものの、やはり頼みの綱はルーキー2人だ。

しかしその片割れ、黒子のパスは試合再開早々またも高尾にカットされる。


「またスティール!!ダメだ、誠凛の魔法のパス完全に沈黙ー!!」


今の状態では黒子は使えない。

遥の胸がちくりと痛んだ。


「…何をボーッとしているのだよ。ここからは本気でいく。もっと必死に守れよ」


続いて、ボールは『キセキの世代』の1人、緑間に渡る。


「オレのシュート範囲はそんな手前ではないのだよ」


手前ではない───それを証明するように、彼はセンターラインからシュートを放った。

ボールは勿論、狂いなくゴールに吸い込まれていく。


「うっお…マジかよ!?あんな遠くから決めてきた!?」


惚れ惚れしてしまう程見事な、ハーフラインからの正確なシュート。

しかも、緑間はもうゴール下まで戻ってきていた。


「ここまで戻れば黒子のパスで後ろをとるなど不可能なのだよ。残念だったな。だが…」


眼鏡の奥の緑の双眸に、揺らぎはない。


「そもそも関係ないのだよ。俺のシュートは3点、お前達のカウンターは2点。何もしなかったとしても差は開いていく」


自分のシュートに絶対の自信を持っている、緑間らしい発言。

確かに、アウトサイドが得意な緑間とインサイドが得意な火神とでは、1回1回着実に差は開いていくことになるだろう。

誠凛対秀徳、点差は既に6点だ。


「ハッ…細けーことなんて知るか!」


ボールを手に、言い捨てる火神。


「3P!?」


そしてそのまま、緑間の目の前で3Pを放った。


「はぁ!?あいつ確かアウトサイドシュートは苦手じゃ…」


高尾の言う通り彼のシュートは専らインサイド、それも花形のダンクが主体である。

驚きに揺れるコートを火神が駆け抜けた。


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