「しかしまさかこんな早く対決できるとはねー。初めて会った時から思ってたんだよ。オレとお前は同じ人種だって」


楽しげに話し出す高尾の言い分は、選手ではない遥が聞いても納得のものである。


「同じ1年だし?パスさばくのがスタイルっつーか生業の選手としてさ。だからねー、ぶっちゃけなんつーの?アレ…同族嫌悪?」


勝敗が明らかになる場での同じスタイルのプレイヤー同士は、仲間意識を持つことは少なく互いに敵でしかない。

それ故相手に憧れを抱くこともあれば、激しい嫌悪を抱くこともあるだろう。

彼の場合は、黒子を認めた上での後者のようだった。


「お前には負けたくねーんだわ!なんか。ってか今までこんな感覚になったことねーんだけどな。お前がたぶん…どっか他と違うからじゃね?」

「すいません。そーゆーこと言われたの初めてで…困ります」


さらりと躱す黒子だったが、彼も彼で高尾に『何か』を感じているらしい。


「…けど、ボクにも似た感覚はちょっとあります」


言うや否や動く黒子。

高尾からすれば、突如彼が消えたようなものだろう。

誠凛期待のルーキー火神VSキセキの1人緑間に、幻の6人目黒子VS古豪のルーキーPG高尾───正直目が足りない。

緊張した表情の遥は口を引き結ぶ。


「日向フリー!!いけ──!!」


高尾を振り切った黒子のパスが、主将・日向へ繋がる───はずだった。


「なーんてな」


余裕のあるセリフと共に現れた高尾が、ボールを叩き落とす。

誠凛陣に動揺が広がる中、遥も思わず目を瞠った。


「黒子のパスが……!?」

「失敗!?」


しかも高尾はそのままゴールまで決めてしまう。

秀徳に追加点。


「アイツの失敗なんて初めてじゃ…」

「いや、たぶん失敗じゃない…アイツも持ってるんだ。俺の鷲の目と同じ…いや、視野の広さはオレより上の鷹の目を」


誠凛PG・伊月は、『鷲の目』を持っているために、『自身を見ようとする視線をそらす』という黒子のミスディレクションが通用しない。

その『鷲の目』より広い視野を持つ『鷹の目』も、全体を見る能力───すなわち、最初から黒子1人を見ようとしていないのだ。

つまり高尾には、黒子ミスディレクションが効かない。


「誠凛タイムアウトです」


黒子のパスが通じないのは、誠凛にとってかなりの痛手である。

ベンチに戻ってくる仲間たちの顔色を窺いながら、遥の表情は強張ったままだ。


「カントク、このまま行かせてくれ…ださい」


そう告げてから、火神は隣に腰掛ける黒子の頭を鷲掴んだ。


「オイまさか、オマエこのままやられっぱじゃねーだろーな」

「まあ…やっぱちょっとやです」

「じゃーひとまず高尾は任せた。こっちもアイサツしよーか。新技もあるしな」


───新技?

胸中に妙な引っ掛かりを感じた遥は、戦意を失っていない後輩を見つめ手を止める。

毎日練習を見てきたはずの火神が、いつの間にか新技を会得していたということも驚きだが───


「…分かってたはずなのに」


黄瀬と同様に、遥が知っている緑間は中学2年まで。

その緑間に新技があってもおかしくはない───。




END


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