「けどあと一試合。もう次だの温存だの、まどろっこしいことはいんねー。気分スッキリ、やることは1つだけだ!」
だが、そのような疲労や懸念を感じさせない清々しい表情で日向は締めくくる。
「ぶっ倒れるまで全部出しきれ!!」
「「おお!!!」」
もう後には何もない。
それこそ本当に、全部出し切って倒れるぐらい思い切りぶつかって構わないのだ。
相手は東の王者・秀徳。
不足はないどころか、一気に雪辱を果たすチャンスである。
「…頑張って」
コートへ出て行く選手たちを見送り、遥も自身の定位置に移動した。
ベンチへ腰掛け見つめる先には、中学時代の後輩・緑間と黒子。
同じコートに後輩たちが揃うのは2回目であるが、遥の鼓動はやはり激しさを増す。
まだ心の準備は出来そうにない。
「まさか本当に勝ち上がってくるとは思わなかったのだよ。だがここまでだ」
『キセキの世代』の1人、緑間真太郎は冷たい眼差しで黒子を見下ろした。
「どんな弱小校や無名校でも、みんなで力を合わせれば戦える。そんなものは幻想なのだよ」
痛烈ではあるが、彼の言うことはあながち間違いではない。
「…………」
後輩たちを視界に静かに思いを馳せる遥に気付いたのか、緑間の視線が動く。
名前と同じ緑の双眸の端に映るのは、強豪校を選ばなかった、中学バスケ界最強校出身のマネージャーだ。
「来い。お前の選択がいかに愚かか教えてやろう」
紡がれた言葉は、目の前の黒子だけに対してなのか、それとも───。
「…人生の選択で何が正しいかなんて誰にもわかりませんし、そんな理由で選んだわけではないです」
緑間と同じく先輩マネージャーを横目に、黒子は穏やかだが力強く返す。
「それに1つ反論させてもらえば、誠凛は決して弱くはありません」
遥は後輩たちを見つめたまま、不安げな表情を隠すことが出来なかった。
黄瀬がいる海常との試合のときにも感じていた、矛盾。
心が、体がずれていく感覚。
そして日々、突きつけられ続ける現実。
「負けません。絶対」
だが、求める救いの手は蜘蛛の糸。
独り善がりの裏返しなのだ。
「相手が真太郎でも、誠凛は負けないよ」
頭の良い彼は、絞り出されたこの真意に気付いてしまっただろうか。
話を終えた帝光中出身の2人が、別々の列へと足先を向ける。
さぁ…
「絶対、負けない───」
誠凛VS秀徳、I・H予選決勝戦開幕だ。
END
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