決勝・秀徳戦は3時間後に迫っている。

控え室に戻った誠凛陣は、慌ただしくその準備に入っていた。


「体冷えないようにすぐ上着きて!あとストレッチは入念にね!」


カントクは手際良く指示を飛ばす。


「疲労回復にアミノ酸!あとカロリーチャージも忘れずに!順番にマッサージしてくからバッシュ脱いでて!」


疲労回復のために購入しておいたものを広げながら、遥は漸く小金井に声をかけることが出来た。

先程は津川に遮られてしまったのだ。


「コガくん、体調大丈夫?気持ち悪いとかない?」

「大丈夫大丈夫!七瀬ちゃんも応急処置してくれたみたいだし、今はもう全然平気だよ!」


いつも通りに明るい笑みを見せた小金井。

油断大敵ではあるが、今のところは一応大丈夫そうである。

と、バナナを口に運びながら小金井は不思議そうに辺りを見渡した。


「あり?火神は?」

「あー…」


伊月が指差す方を見ると、ロッカーに背を預け眠りこける火神の姿。

気持ち良さそうではあるが、今眠ってしまうのはあまり宜しくない。


「ちょっ、コラ火神!!寝たら体固まっちゃうでしょーが!」

「まぁ…ほっとけよ」


カントクは声を荒げるものの、日向をはじめ、2年生が火神を見る目は優しい。


「試合の後珍しく凹んでたからな」

「4ファウルで抜けたからだろー?気にすることねーのに」

「コガ、ラスト抜けたのは予定外だったけどね」

「う」


相手の策にハマり4ファウルカウントで戦力外通知をもらったのだから、胸に引っかかるものがないはずがないのだ。

普段鋭い火を点す双眸が閉じられ、いくらか幼く見える火神の正面に遥はしゃがみ込む。


「火神くん、ほんと熟睡中だね」

「こいつなりに責任感じてんじゃねーの?それにただ寝てるってゆーより…」


その頬に手を伸ばしても、彼が起きる気配はない。


「次の試合に備えて、最後の一滴まで力を溜めてるように見えるからな」


日向の言う通りだと微笑ましげに後輩を眺めていた遥が、突如「あ」と短く声を上げて振り返る。


「今度から寝袋用意しとくべきかな?」


空気が固まった。









そんなやりとりから数時間。

いよいよ、待ちに待った決勝戦開始時刻である。

コート脇で円陣を組んだ誠凛主将の第一声は、


「いや〜〜〜……疲れた!」


王者を下した疲労を感じさせる、大きな溜め息と共に吐き出された。


「今日はもう朝から憂鬱でさ〜、二試合連続だし王者だし、正邦とやってる時も、倒してももう一試合あるとか考えるし」


昨年散々虚仮にされた王者2校に1日で挑むなど、肉体的にも精神的にもなかなか酷な話である。

実際にプレイする選手たちは、常にギリギリのラインなはずだ。


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