誠凛勝利───!

創設2年目の新鋭校が見事王者を打ち負かし、勝利を手にしたメンバーだけでなく会場全体が沸き立つ。

コート上で喜びを露にするメンバーは勿論、遥たちベンチから見守っていたメンバーも総立ちで飛び交う歓声に包まれていた。

つい先程試合から離脱した小金井も、もうすっかり元気を取り戻したようである。


「コガくん、体調は───」

「なんでだよ!!」


小金井に声をかけようとした遥だったが、悲痛な響きを滲ます声に遮られた。


「誠凛なんて去年できたばっかのとこだろ!?練習だって絶対ウチの方がしてるのに!去年なんて相手にもなんなかったのに!」


次々と不満を吐露する津川。


「強いのはどう考えてもウチじゃんか…」

「やめろ津川」

「だって…」


興奮し、まくし立てるルーキーを制したのは主将・岩村だった。


「強い方が勝つんじゃねぇ…勝った方が強いんだ」

「そゆこと〜。さ、整列いこーぜ〜」


数学のロジックのように『勝敗』を理解しているらしい、正邦の柱2人が促す。


「誠凛の方が強かった。それだけだ」


この試合は誠凛が勝った。

それは誠凛が強かったから───。

確かな論理が、遥に影を落とす。

軽く頭を振って思考を切り替えると、目の前に広がるのは堂々とした部員たちの姿だ。


「73対71で誠凛高校の勝ち!!」

「「ありがとうございました!!」」


彼らは本当に、東京の王者の一角を倒してみせた。


「…リコ」


念願叶った喜びを分かち合おうと隣を見れば、感極まった様子で涙ぐむカントク。

その姿に遥の瞳にも薄い膜が張る。

部員たちはこの1年、それは真剣にバスケに打ち込み全てを捧げてきた。

そして、女子高生が監督だからだと馬鹿にされながら、リコもまた真剣にバスケと向き合ってきたということも、遥は知っている。

七瀬遥は、誠凛バスケ部を毎日一番近くで見てきたマネージャーなのだ。


「シャンとしろカントク。まだ泣くとこじゃねぇよ。喜ぶのは次の決戦に勝ってからだ」


誠凛主将・日向は、カントクの頭に手を置きながら言った。

この2人は長い付き合いだからこそ、お互いの努力も苦悩も理解しているのだろう。

羨ましさを感じながらも、遥はカントクの手を握った。


「って七瀬もか…。まだオマエの後輩との試合があるだろが」


日向は続いて遥の額を小突く。

まだ泣いてないのにと小さく抗議し、空いた手で額を押さえながらも遥は言った。


「ちゃんと見てたよ。最後の順ちゃんカッコ良かった」


鼻で笑った日向は再度遥を小突く。


「だアホ」


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